「お葬式」「マルサの女」遂に4Kリマスター化 「伊丹十三作品」はなぜネット配信されないのか

■10作品のすべての権利を保有する

 過去の名作の数々を気軽に動画配信サービスで視聴できる今、4Kリマスター化された伊丹作品も楽しみたい。そんな声は当然あるはずですが、今のところ配信される予定はありません。
しかも、過去作によくある権利処理の関係で配信できないという理由ではなく、IP(知的財産)ブランディング戦略によるものです。

 どのような戦略なのでしょうか。日本映画放送の宮川常務は「いつだってNetflixにもAmazonプライム・ビデオにも作品を出せる条件はそろっていますが、有料放送や劇場のスクリーンでしか見ることができない“不便さ”を戦略としています。
伊丹作品に11作目はありませんから、全10作品をいかに大事にお客さんに届けるかを考え抜いた結果です」と説明します。

 要は不便さを押し出すことで、作品の希少性を高める狙いです。動画配信サービスの普及に伴い、ユーザーが選べる作品数は圧倒的に増え、さらに世界的にコンテンツが次々と大量生産されている状況をみると、過去作は埋もれがちになります。
それを避けるために、流通手段を慎重に選択したと言えます。

 加えて、伊丹プロダクションが10作品すべての権利を保有する特殊な事情が独自の戦略を導き出しています。同じ監督作品でも作品ごとに権利元が異なるケースが多いなか、伊丹作品は伊丹プロダクションが一括管理する仕組みを作り上げています。
池内社長曰く、「映画製作の当初の段階からチラシであろうと広告であろうと自分たちの作品としてコントロールし、映画スチール写真まですべて買い取っていた」とのこと。

 なぜ伊丹作品に限ってそれができたのでしょうか。その理由も池内社長は「映画会社がかりではなく、自分たちで製作資金を調達したからこそ、権利関係を明確にすることができた」と語っています。

 つまり、作品をIPとして捉えていたのです。製作資金をリクープし、さらに次の作品を生み出すため資金源を確保するためです。
今でこそ世界の映像コンテンツ市場で支持される考え方ですが、80年代から日本国内でその意識を持って実行していた伊丹作品のすごさを改めて思い知らされます。

https://news.yahoo.co.jp/articles/b32aef1678a044845a9d0ac1c2a2dca5507e435c