
その悲しみ、不満のはけ口として当局が用意した答えの1つが、恒例の春節イブの娯楽番組、「中国版紅白」とも言われるCCTV(中国国営中央テレビ)の「春節聯歓晩会」(春晩)にほのめかされていた。
今年の春晩は、例年のような習近平礼賛プロパガンダ色が「淡化」した、というもっぱらの評判だった。だが、1つだけ国内外のチャイナウォッチャーの議論のネタになった出し物があった。コント劇の「坑」(あな)だ。
これは人気コメディアンの沈騰が、とある地方の交通部門の典型的な「寝そべり官僚」(中国語で「躺平式官僚」、寝そべり主義のやる気のない官僚、サボタージュ官僚)を演じる官僚批判劇だ。
道路の陥没によってできた「坑」をずっと放置している無責任な寝そべり官僚の「郝主任」は「たくさんのことをやると、たくさんミスをしてしまう。やることを少なくするとミスも少ない。何もやらなければミスもない」と、寝そべり主義の哲学を語り、いつもオフィスのソファに寝ころんでいる。
そこに、新任の「馬局長」(主任の上司)がやってくる。この馬局長は人気コメディエンヌの馬麗。つまり局長は女性なのだが、来る途中に坑に落ちて足を怪我してしまう。郝主任はオフィスにやって来た足を怪我した女性を、自分の上司と気づかずにただの陳情者だと思い込み、道路を直せと言われてもぞんざいな受け答えをする。寝そべり主義を炸裂させた郝主任はついに免職になってしまった、という内容だ。
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官僚の寝そべり主義を戒めた諷刺だが、さすが人気喜劇役者だけあって面白い。
だがこのコントが単に視聴者の笑いをとるだけのために披露されたものではないことがすぐに判明する。翌日の春節当日、党中央規律委員会サイト上で、「寝そべり幹部に二度と人を穴に落とさせはしない」というタイトルの論評を発表したのだ。
この論評は、この種の幹部の社会リスクは明らかで、彼らが党と国家の発展事業を遅らせ、民生の福祉を損害し、庶民の心を傷つけている、と主張した。
つまり、党は春晩のコントを通じて、今、人民が苦しみ傷つき、不満に思っていることの原因は、習近平や党の政策のミスのせいではなく、寝そべり主義の末端の官僚たちのせいであり、彼らの責任を追及すべきだ、と世論を誘導しようとしたわけだ。
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