存在感が高まる中国製の電気自動車(EV)はつくりにどんな特徴があるのだろうか。名古屋大学の山本真義教授らは新興EVメーカー、上海蔚来汽車(NIO)の多目的スポーツ車(SUV)「ES8」を分解調査した。分かったのは走りに関わる基本機能ではコスト削減を優先する一方、搭乗者の手や目に触れる部分には高級感を持たせた割り切りの車づくりだった。

2014年創業のNIOは自社でEVを設計・開発し、生産は安徽江淮汽車集団(JAC)に委託する事業形態をとる。日本能率協会がイベントでの展示を目的に輸入したES8を山本教授らが分解調査した。

ES8はNIOが17年に発売した主力SUVだが、今回調べたのは18年に販売されたモデル。価格は日本円換算で1000万円ほどと、中国で近年需要が増えている高級SUVの一つに位置付けられる。

しかし、走る・止まるなどの基本機能は「1ランク下のEVと変わらない」(山本教授)。例えば、ES8に搭載されたEV用の駆動装置「eアクスル」は、山本教授らが過去に調査したNIOの1ランク下のSUV「EC6」のものとほとんど同じだった。

eアクスルの主な構成部分であるインバーターの中身は、独インフィニオンテクノロジーズの汎用パワー半導体のほかは中国製の電子部品ばかりだった。異なる車種に類似の駆動装置を載せることでコストを削減できる点を除けば、これといった特徴がないという。

一方で、搭乗者と触れるインターフェース部分には工夫を凝らしている。例えば、計器類が載るインストルメントパネルは照明の色を好みで変えることができる。運転席と助手席の間のセンターコンソールには、スマートフォンの無線充電器を装備している。

人工知能(AI)による音声認識技術を使い、運転中に口頭でサンルーフの開閉を指示できる。山本教授は「乗り心地など伝統的な車の基準で判断すると高価だが、中国の若者が望む価値観を提供していると考えれば妥当な価格設定なのだろう」と評価する。

NIOの車は一方で、充電ではなく電池自体を交換する「バッテリー・アズ・ア・サービス(BaaS)」という手法を前提にしている。山本教授はES8の電池の着脱部も調査したが、交換を繰り返しても問題ない丈夫な構造であることが確認できたという。

つまり、ES8はNIOの戦略に沿ってメリハリを付けたハードウエアになっているといえる。日本メーカーのEV開発のあり方にも影響を与えそうだ。

(アジアテック担当部長 山田周平)

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