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源氏名でも診察OK…歌舞伎町の風俗嬢が「性病検査の代打」をするしかない深刻な経済的問題と梅毒患者の爆増
日本で梅毒の感染が爆発的に広がっている。2022年はおよそ1万2900例が確認され、その数は前年の1.7倍にも上る。新宿・歌舞伎町の風俗店に勤務する従業員の間でも感染は頻繁に報告されているという。その背景には女性の経済的な問題も深く関わっており、一筋縄には解決できなさそうだ。ルポライターの國友公司氏が取材したーー。
本稿は、國友公司著『ルポ歌舞伎町』（彩図社）の一部を再編集したものです。
性病検査が「任意」の風俗店
風俗嬢の出費はシャンパンタワー代と担当ホストへのプレゼント代だけではない。性病検査代、接客時に使う備品代は基本的に風俗嬢持ちである。
女性が男性客に対して身体を売るためにかかるコストを店側が出してしまうと、警察からすれば「それ、管理売春しているよね」ということになってしまう。たとえ店が出したとしても経費としてはもちろん計上できない。「だから自分たちで出してくれ」というスタンスなのだ。
以下は、スカウトから風俗嬢兼キャバ嬢のアユに送られてきた風俗案件の条件の一部である。
・業種…高級デリヘル
・キズ、タトゥー、妊娠線…応相談
・身分証…基本は顔付き必須
・生理時…海綿つめての出勤はOK
・待機場所…漫喫待機 無料（赤坂見附）
・性病検査…任意
性病検査が「任意」となっている。これは珍しいパターンなのかアユに聞いてみる。
「こんな感じでスカウトからいつも案件が送られてくるんですけど、性病検査は裏では任意のところがほとんどですね。私なんか別にうつしてもいいかなって思ってますけど。私みたいな子は検査必須の店でもしないけど、それでも在籍できちゃう店ばっかりですし」
それを「任意」というのではないだろうか。さらに、たとえ性病検査で陰性だった風俗嬢でも、その全員が陰性ではないとアユ。どういうことだろうか。
「新宿駅東口に風俗嬢御用達のクリニックがあって、そこは店名と源氏名だけで性病検査ができるんです。まだ親の扶養に入ってるとか、保険証を使えない事情がある風俗嬢が多いんです。風俗で働いてることが親にバレちゃうから」
性病にかかっても代打を出せば出勤できる
調べてみると、同じシステムを採用している病院はひとつではなかった。もちろん親バレを危惧して性病の症状に悩む風俗嬢が病気をうやむやにしないために考えられたものであり、蔓延防止の観点からも理にかなったシステムである。しかし、性病にかかった風俗嬢たちはこの温情システムを悪用しているのだという。
「定期的に性病検査の結果を提出しなきゃいけない店もあります。股間がかゆくてかゆくて仕方ないけど、ホストクラブの売掛（ツケ）が残っているとかで出勤しないとマジで詰むって状況だったら、ほかの健康そうな女の子に〝代打〟で検査に行ってもらうんです。〝この店のこの源氏名、前に来た子と違うな〟と仮に病院が思っても所詮源氏名ですから。私が今の店を辞めても、また別の子がアユと名乗る可能性はいくらでもありますし」
性病検査の代打！ 横浜ベイスターズの元監督のラミレスによる奇策「代打・ウィーランド（投手）」に並ぶ奇策である。
風俗店プロフィールの実態
性病検査代のほかに風俗嬢の出費となる備品は、主に避妊具と女性用潤滑油と海綿である。アユは副業でメーカーから女性用潤滑油と海綿を仕入れ、自分でネットショップを開いて売り捌いているという。とうとうアユは風俗嬢なのか女衒なのか私はわからなくなってきた。アユは女性用潤滑油についてキラキラした目で語り始めた。
「女性用潤滑油市場は〝ウエトラ（ウェットトラストプロ）〟一強状態なので、自分のショップでウエトラを売ってもほとんど売れないんですよ。わざわざ私のサイトに来なくても風俗嬢ならみんなウエトラを知っているので。だから私はあえてウエトラではな2番目に有名なメーカーの潤滑油を売っているんです」
ウエトラは注射器型の容器に潤滑油が仕込まれたものだ。通常のものよりも粘度が低く、奥のほうに注入することで奥からジワ～っと本当に濡れてきたように客を錯覚させることができる。注入部分の丈の長さ、滑らかな流線を描いたフォルムなど絶妙なデザインが施されているようで、ホームページを見ると特許まで取得していた
