政府が防衛力の大幅強化を掲げる中、自衛隊員の確保が課題となっている。応募者は過去10年で3割近く減少し、人員は特に第一線を担う階級で不足。少子化に加えて景気回復で人材獲得競争が激化し、改善は見通せない。ロシアのウクライナ侵攻などで若者に広がる「戦場に赴くのでは」との不安や、相次ぐ隊内のセクハラ、パワハラ問題も拍車をかける。沖縄県・宮古島近海で4月6日に起きた陸上自衛隊ヘリコプター事故の影響も懸念される。

「休日は自分の時間が結構ある」「食事や寝具は支給され、家賃は一切かからない」-。高校生ら10人が熱心に耳を傾けた。熊本市北区の陸自北熊本駐屯地であった自衛隊熊本地方協力本部(地本)のセミナー。戦闘車両の見学もあり、担当者が「最高速度は何キロでしょう?」などとクイズ形式で説明した。同市の女性(18)は「意外に福利厚生がしっかりしている」とうなずいた。

 熊本地本は、兵器の見学を盛り込んだセミナーを2021年度から催している。商業施設へのブース出展、「映える訓練風景写真」の交流サイト(SNS)投稿…。あの手この手で若者の関心を引く。

 「採用は年々困難になっている」。担当者の実感だ。21年度の応募者は12年度の約11万4千人から3万人減少。18年以降は一部区分で採用年齢の上限を6歳引き上げて32歳としたが、効果は出ていない。就職は売り手市場が続き、高卒の求人倍率は23年卒がバブル期並みの3・01倍に達した。

 「『子どもが戦場に行く恐れがある』と自衛隊を不安視する親が増えた。従来なかったことだ」。鹿児島県で隊員の募集相談員を20年以上務める男性(73)は明かす。同県では中国軍艦が屋久島近海で領海侵入を繰り返している。西之表市の馬毛島では自衛隊基地が着工。ウクライナ侵攻もあり、軍事衝突の可能性を身近に感じる環境にある。

 男性はかつて「どうしたら入隊できるか」との相談をよく受けたが、この1年は若者や親に入隊を誘っても反応は薄いという。4月6日のヘリ事故では、同県も管轄する陸自第8師団長らが犠牲になった。男性は死亡した隊員の冥福と、不明隊員の早期発見を祈りつつ「採用にも影響がないとは言えない」と語る。

 昨年、元陸上自衛官の女性が隊内での性被害を告発して社会問題化。長崎県佐世保市の海上自衛隊佐世保基地でも4月、護衛艦乗組員の自殺は上官のパワハラが原因などとして、遺族が国を提訴した。「採用には大きなマイナス要因だが、厳しい指導が必要な組織でもある。難しい」。九州の陸自幹部はつぶやく。

陸海空などの自衛隊の定員は約24万7千人。22年度は約1万4千人不足した。第一線の核となる「士」の階級は充足率が8割で、能力を保つ上での懸念材料となっている。政府は当面、定員を維持する方向だが、募集対象となる18~32歳は38年度までに約260万人減る。防衛省関係者は実態を踏まえ、「定員維持は現実的でない」と語った。

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