たとえば日本では、まだ誰からも名指されていないのに「KKO(キモくて金のないオッサン)」と自認した中年男性が、なぜそうした表現が出て来ざるを得ないのかを理解せぬまま、キャンセルを恐れてうわべだけはへりくだった態度を示しつつも、本人は男性目線(male gaze)を根本的に正さず、ミソジニーをかえって拗らせていくさまはしばしばSNS上で散見される。
 たんに「謝罪」や「自戒を込めて」の言葉をキャンセル対象に表面的になぞらせるだけでは、むしろその性質を内面で強化するのを助けるに過ぎない。徹底的にフェミニズム規範を身体動作も含めて刻みつけ、男性目線を改めなければ、問題は将来的に解決しないのである。
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世界 2023年6月号
〈理論的視座〉
キャンセルカルチャーはデモクラシーを窒息させるのか?
五野井郁夫(高千穂大学)
https://www.iwanami.co.jp/smp/book/b626485.html