「マダニ」がヒトの「毛」を奪った? なぜヒトの体毛は少ないのか

 マダニは、卵、幼虫、若虫、成虫といった段階を経て成長するが、卵以外の各段階で別々に宿主を変えながら吸血して一生を終える種類が多い。また、宿主に巡り会えない場合、1年以上も吸血せずに生存することが可能だ。高さ1メートル程度までの背の低い灌木や草原の草の先に待機しながら、マダニは新しい宿主が通りかかるのをじっと待つ。

 一方、ヒトの祖先の化石は、アフリカの熱帯林の周辺部、樹木が少しまばらになって開けた雑木林といった湿潤な環境で発見されている。そして、マダニはこうした環境を好む。

 アフリカ大陸は、900万年前から乾燥し始め、66万年前から26万年前にサバンナが広がっていたと考えられているが、二足歩行を始めてサバンナに進出したヒトの祖先が通りかかると、マダニはヒトにしがみつき、吸血する場所を探してから咬みついて血を吸い、感染症を媒介させた。

 体毛の多い動物ではマダニの発見が遅れることが知られ(※6)、現代のヒトでも頭髪のように毛の多い部分に潜んだマダニの存在が報告されている(※7)。こうした理由から、ヒトの祖先が性選択の際、体毛の多い個体を避けるといった淘汰圧を繰り返していけば、次第に体毛は薄くなり、やがてなくなっていくだろう、というのがこの仮説のシナリオだ。

https://news.yahoo.co.jp/byline/ishidamasahiko/20230625-00355158