進む教科書書き換え にじむヒンズー至上主義 現場から懸念と憤り・インド(時事通信)
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【ニューデリー時事】インドの教科書から政権に不都合な記述が消えた。

インドで支配的なヒンズー教の伝統を絶対視する政権の意向を反映したとみられる改訂も行われ、教育現場から影響を懸念する声が上がっている。

「ヒンズー教徒とムスリム(イスラム教徒)の結束というガンジーの確固とした追求は、ヒンズー過激派を刺激した。彼らは幾度となく暗殺を試みた」。近代政治の教科書に長くあった記述が、今春の改訂版から消えた。教科書は日本の高校3年生に相当する12年生が学ぶ。

イスラム教徒との融和を唱えたインド建国の父マハトマ・ガンジーは1948年、ヒンズー至上主義団体・民族義勇団(RSS)所属の男に暗殺された。RSSは現与党の支持母体で、モディ首相もRSS出身だ。改訂版からは「RSSのような組織は、しばらくその活動を禁じられた」との記述も無くなった。

また、西部グジャラート州で2002年、イスラム教徒を中心に1000人以上が死亡した宗教暴動の項目も削除された。当時の州首相はモディ氏だ。歴史の教科書からはイスラム王朝に関する記述が大幅に割愛された。

全国的なカリキュラム作成や教科書発行を担う「国立教育研究訓練評議会」(NCERT)は昨年、新型コロナウイルス禍における生徒の負担を減らすため、教科書の内容を一部削減すると発表している。ただ、削減部分を示したリストにガンジー暗殺に関する改訂は載っていない。

政権の意向に沿った教科書の書き換えは、高校に限らずこれまでも進められてきた。

首都ニューデリーの中学教師、プリヤンカ・アグラワルさん(47)は「私たちは過去を知ることで今後過ちを犯さないようにする。改訂は政治的な目的で行われており、間違いだ」と話す。キリスト教系の学校で教えるアムリタ・ラルさん(36)は「政府は手を突っ込むべきではない」と改訂に憤りを隠さない。公立学校の教師の多くはこの話題に触れることを恐れているという。

デリー大学のマヤ・ジョン助教(歴史学)は「政府は歴史を意図的にゆがめ、特定の世界観を構築しようとしている。インドの民主主義が脅威にさらされている」と批判。改訂の撤回を求めている。大学の研究も政権からの圧力にさらされ警戒が強まっている。

NCERTは時事通信の取材に応じていない。