インドの最も象徴的なエンターテイメントであるボリウッドとクリケット。このふたつほど、インド経済における「ダイナミズムと根深い錆び」を如実に示しているものはないと、英紙「フィナンシャル・タイムズ」が報じている。

インターネット時代におけるファン獲得競争のなかで、ボリウッドとクリケットはどちらも同じ課題に直面してきた。このふたつの明暗を分けたのは何だったのだろうか?

インドで「プレミアリーグ」といえば、それはサッカーではなく、クリケットの全国リーグである「インディアン・プレミアリーグ(以下、IPL)」を指す。2008年の開始以来、IPLの推定価値は11億ドルから150億ドル以上へと成長している。

五輪競技ではないクリケットだが、インドやパキスタン、オーストラリア、南アフリカ、バングラデシュ、スリランカ、西インド諸島などのイギリス連邦諸国を中心に人気の競技で、サッカーに次ぐ世界第2位の競技人口をもつスポーツだとも言われている。

毎年春に開幕するIPLのシーズンは2ヵ月間ほどだが、今年はその間にライブ放送とストリーミングで10億人近くの視聴者を集めた。

また、IPLは昨年、5年間の放映権を65億ドル(約9450億円)で販売した。1試合あたりの価格としては、イングランドのプレミアリーグを含む他の多くのプロスポーツよりも高く、アメリカンフットボール(NFL)に次ぐ第2位の高価格である。

これに対し、ボリウッドの興行収入は長年減少傾向にあり、パンデミックでさらに急落した。同紙によれば、年間入場者数はパンデミック前の3億4000万人から1億9000万人に減り、これに伴い、今年の興行収入もこれまでのところ2019年の同時期と比べて半分近くに減少したという。

IPLはデジタル時代における「視聴者の集中力の持続時間」を理解し、それに適応していると、同紙は述べている。

たとえば、クリケットは試合時間が長いことで知られていたが、IPLはその試合時間を4時間未満に短縮し、他にもチアリーダー、DJ、マスコットのダンス、色鮮やかなユニフォームなど、ファンを楽しませる「パーティー的な演出を増やしている」。

ストリーミングでは、視聴者がカメラのアングルを選択することもできるなど、技術的なアップデートもされている。

一方で、ボリウッドは「古臭い脚本と高齢化したスターに固執し続けている」。

経営スタイルも古く、主演俳優が各作品の利益のおおよそ半分を握るという昔ながらのスターシステムに頼っているため、新しい才能を発掘する資金もない。

また、現在のインドでヒンディー語を話す人口は半分にも満たないが、ボリウッドはヒンディー語にこだわり、その言語を話す観客をターゲットにした映画を作り続けているのも問題であるようだ。

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