2023年8月末、米紙「ニューヨーク・タイムズ」は、カリフォルニアのシリコンバレー付近に米国の億万長者らがユートピアを作ろうとしていると報じた。

そのユートピアとは、農業地帯に一から建設する、何万人もが暮らすまったく新しい都市だ。この計画を進めるカリフォルニア・フォーエバー社のウェブサイトによると、都市はクリーンエネルギーで運営され、公共交通機関が充分に整備されて住人は徒歩と自転車で生活できるという。

また、周辺に大きな建物はなく、都市の周辺には広大な空間が広がり、住人はサイクリングやカヤックなどのスポーツもできる。同社によると、同地では大規模な太陽光発電プロジェクトが計画されており、コミュニティ全体で長期にわたる雇用を何千も生み出せるという。

この新都市建設計画は、同社CEOのヤン・スラメックの構想から始まった。米証券ゴールドマン・サックスのトレーダーであった彼は、何年もかけて投資家らを説得し、資金を集めてきた。

その莫大な資本を使い、子会社のフラナリー・アソシエイツはサンフランシスコの北東約100キロメートルに位置する農業地帯で土地を買い占めてきた。2018年から9億ドル(約1300億円)以上をかけ、サンフランシスコ市の倍ほどにもなる220平方キロメートル以上の農地や空き地を買ったという。土地所有者には市場価格の数倍の支払いがあったそうだ。

シリコンバレー付近の深刻な住宅不足
この壮大な計画に投資するのは、シリコンバレーの大物ベンチャーキャピタリストたちだ。グーグルなどに初期から投資してきたセコイア・キャピタルのマイケル・モリッツ、リンクトイン共同設立者のリード・ホフマン、アンドリーセン・ホロウィッツのマーク・アンドリーセン、決済会社ストライプの共同設立者コリソン兄弟らが名を連ねる。

故スティーブ・ジョブスの妻で、エマーソン・コレクティブを運営するローリーン・パウエル・ジョブスも含まれている。

これほどの大物からの投資が集まったのには、サンフランシスコ周辺のベイエリアでの住宅不足が深刻で、不動産に対するニーズが非常に高いためだ。シリコンバレーでは企業の成長とともに人口が増えたものの、住宅の建設は追いついていない。そのため、同地域の家賃は全米でトップクラスに高くなっている。

これまでもベイエリアで新たな居住空間を作ろうとする構想は幾度となく生まれてきた。スタートアップに投資するインキュベーターのYコンビネータも、何もないところに新たな経済と社会の都市を新たに建設しようという計画をかつて打ち出している。


秘密にされてきた新都市建設案
今回の計画が立ち上がっているソラノ郡はベイエリアの一角に位置する貧しい乾燥地帯で、人口も比較的少ない。牧場や風車、送電線で覆われ、土地価格も安かったという。コミュニティに雇用機会を提供することで、新たな都市建設について説得しやすいと想定されていたようだ。

しかし、土地購入にあたって、その目的は決して明かされず、フラナリー社に関する公開情報もほとんどなかった。そのため、土地の使い道に関してさまざまな憶測が飛び交い、地元住民の不安は高まっていたようだ。

また、英紙「ガーディアン」によると、購入された土地の一部が空軍基地付近に位置していたために米軍も警戒し、FBIの捜査対象になっていたという。

8月末、同地域を代表するジョン・ガラメンディ連邦下院議員らに対し、フラナリーから計画を説明する会合への出席要請があった。同社は計画に関するウェブサイトを公開し、今後は地域に説明をしていく意向を示している。

しかし、地元での不信は強い。ガラメンディは「秘密主義で卑劣だ」と同社を批判する。地元フェアフィールド市のキャサリン・モイ市長は、この計画から地域を「防衛」するつもりだと語る。

また、購入された土地は住宅用地として区画整理されておらず、住民や州当局の承認を得なくては都市の建設を始められない。実際の工事着工までには、長い時間がかかるだろう。

https://news.yahoo.co.jp/articles/2756616737a685465bed69f6af44e4853c74fa38