誹謗中傷被害にあった場合には、SNS事業者とプロバイダーに開示請求という手続きをとり、書き込んだ人の情報を開示してもらうことができる。しかし、そのIPアドレスを契約した人=書き込んだ人、とは限らない。

弁護士ドットコムには、自分自身は誹謗中傷はしていないが、自宅のWi-Fiを使って誰かが誹謗中傷投稿をしてしまったようだとの相談が寄せられている。

相談者は「私の家はいわゆる溜まり場のため、Wi-Fiを自由に使えるようにしておりました」という。しかしある日、「1つの書き込みが誹謗中傷に該当するとして、法律事務所から直接示談金の請求が来ました」。

相談者は「書き込んだのが自分では無い場合でも、IPアドレスが我が家のものであれば私が責任を取らないといけないのでしょうか」と質問する。



責任をとらなければならないのは、インターネット上で、実際に名誉毀損行為や侮辱行為を行った「発信者」であって、プロバイダと契約した人ではありません。

もっとも、プロバイダと契約した人は、その通信設備を管理しうる立場にありますので、通常は、誰が「発信者」であるのかについて知りうる地位にあります。

しかしながら、相談者のように来客に自由に使わせているケースや、フリーWi-Fiとして来店者に自由にインターネットが利用できるようにする店舗もあります。このような場合には、契約者が「発信者」であるとは限りません。また、来客や店舗の利用者であれば誰でも使えるようにしている以上、契約者自身も、「発信者」を把握することができません。

まず、発信者情報の開示請求がプロバイダに対してなされた場合、プロバイダは、意見聴取を行います(プロバイダ責任制限法第6条1項)。この意見聴取に際して、「自らは店舗を経営しており、フリーWi-Fiとして、自由にインターネットが利用できるようにしていることから、発信者が誰であるかについて正確に把握できない」との事情を具体的に回答しておく必要があります。

意見聴取の段階で、自らが発信者であることを前提に、開示に同意しないとの回答を行っていた場合には、意見聴取の段階と開示後の段階で、回答が一貫しないこととなります。この場合、フリーWi-Fiとして公開していたとの説明に、信憑性を欠いてしまうことになりますので、フリーWi-Fiであるとの主張自体が、単なる言い訳として捉えられてしまう可能性があります。

また、通常は、プロバイダとの契約は、自らがインターネットを利用するため行うものですので、一般的には、契約者が「発信者」であるとの推定が及びます。

そのため、契約者には、自らが「発信者」でないことについて、ある程度、積極的な立証が求められます。一般家庭で利用するインターネット設備について、単に、フリーWi-Fiとして公開していたと主張したとしても、それだけで、自らが「発信者」でないとして、責任を免れることができるかというと、それはなかなか難しいでしょう。


https://news.yahoo.co.jp/articles/ef335a4e22e26e27aacd56e01c422487f63dc8e5