書道家の武田双雲さんは、子供のころから衝動的に行動するために、けがが多く、時間割に合わせて学校の準備をすることも苦手だったそうです。ADHD(注意欠陥・多動性障害)だとわかって「気が楽になった」と言います。(聞き手・斎藤雄介)
――自分がADHDだと思ったきっかけはありますか。
最初、妻が、ぼくのことをADHDじゃないかと疑い始めたんですね。新婚旅行で、フランスの観光名所、モンサンミッシェルに行ったんですけど、ぼくは3回くらい行方不明になったんです。ぼくの側から見ると、気づくと妻もいないし、同じバスの旅行客もいない。
妻から「(一緒に)やっていけない」と言われました。でも、ぼくは、なんでやっていけないのかが、わからない。妻の言うことの意味がわからないんですよ。
妻は危機感を持ったのでしょう、ADHDの本を読んでいました。でも、ぼくは興味を持たなかったんです。
2016年ぐらいに、たまたまインターネットの記事で、アインシュタインがADHDだったのではないかという記事を見て、「なんだろADHDって。聞いたことあるな」と思って検索したら、診断サイトが出てきた。それを見たら、ほとんど当てはまりました。自分の説明書かなと思うぐらい。
その後、岩波明先生(昭和大学附属烏山病院病院長)とお会いして、「ほぼ確実にADHDでしょう」と言われました。それで、すごい気が楽になったんですよ。子供のころから、「ちゃんとしろよ」と言われ続けてきたんですが、そういう性質だったんだと受け入れることができました。ADHDという言葉が、ぼくを救ってくれた。
今も日常生活はいろいろあるけれど、周りからのサポートもあるので薬の処方は受けていません。
――ADHDの特性とはどのようなものですか。
ぼくは、ADHDの多動性、衝動性を強くもっています。こうしていても、体が止まらないです。今も足が動いている。ずっとどこか動いていますね。
衝動的に何かをやろうとするんですよ。突然、ジャンプしたり、突然、変顔をしたり、自分で思ってもないことを言ったりするんです。それが面白いって言ってくれる人もいるし、怒らせてしまうこともある。
これをやったら面白いだろうと思ったら先に体が動く。そんな感じです。
ストーブに座って大やけど
――子供のころは大変だったのではないですか。
小学校のときには、目をつぶってどこまで行けるか試しました。壁にぶつかって目の上を切って、血だらけで家に帰りました。大けがですよ。
ストーブの上に座っても、一瞬なら熱は伝わらないんじゃないかと思って、パッと座って大やけどです。なんでそんなことをするんだろうと思うのですが、ふと思ってやるんです。危ないですよね。
3回目に骨を折ったときには母親が「マイ松葉づえ」を買ってくれたんです。松葉づえは病院で貸してもらうもので、普通なかなか買わないですよね。学校にいると、なんか楽しくなっちゃって、松葉づえでいろんなクラスを回るんですけど、それでものを壊したりしてね。
子供のころは衝動性がひどいですね。ひとつひとつのことに興味が行くから、まったく周りが見えてないんです。視野が狭い。
気は強くないんです。性格はビビリ(怖がり)なんですよ。怖いものに立ち向かっていく勇気もない。それなのに衝動性でやってしまうという感じ。思った瞬間に体が動いちゃう。
「いまも学校時代の悪夢見る」
――勉強も苦労したのではないですか。
時間割通りに授業の用意ができないんです。そういうことがとても苦手です。
いまだに学校が夢に出ます。みんなについて行けない夢。みんな、プリントとか用意するんだけど、何を用意しているのか、さっぱりわからない。何の授業? これ何の授業? 一人だけわかっていない。いまだにそういう悪夢を見る。
びっくりするぐらい勉強しないし、びっくりするぐらい宿題をやらない。とくに暗記教科ができなかった。感覚的に解ける数学の方がましでしたね。仕組みがわかれば解ける方がまし。覚えなければいけない教科は苦手でしたね。
――でも、友達もいて楽しかったんじゃないですか。
ぼくは友達がわからないんですよ。友達っていう概念がわからない。すごく仲のいい友達がいたわけでもない。目の前にあるものに反応しているので。いまだにわかんないですね。友達ってなんだろう。何回も連絡取っている人はいるけど。
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