改憲論の足元で放置される「憲法違反」の現実

 衆院選でほとんど争点にならなかった憲法改正について、選挙後になって改憲派の政党から争点化する動きが目立つようになった。議席を伸ばした日本維新の会の松井一郎代表は「(来夏の)参院選と同時に国民投票を実施すべきだ」と語る。しかし、新しい議会構成での臨時国会が12月から始まる今こそ、立ち止まって考えてみたい。日本国憲法の条文を変える前に、考えるべき憲法問題が目の前にあるのではないか。

・総選挙の直後から始まった憲法改正の争点化の動き
 衆院選の投開票日から一夜明けた11月1日、岸田文雄首相は記者会見で、憲法改正について「党是である改憲に向け、精力的に取り組む」と述べた。2日には維新の松井代表が参院選で改憲を争点化する姿勢を打ち出し、国民民主党も改憲論議を進めることを維新と確認した。

 自民党は、「自衛隊明記」「緊急事態条項創設」「参院選の合区解消」「教育無償化」の「改憲4項目」をまとめており、「憲法改正推進本部」を「憲法改正実現本部」に名称変更した。茂木敏充幹事長は読売新聞の取材に、「緊急事態条項」の創設を優先的に目指す方針を示した。改憲論議が今後の政治の争点になりそうな気配だ。

・政権に無視される憲法53条に基づ野党の臨時国会の召集要求
 しかし、憲法の条文をどう変えるかばかりに力が込められる一方、真剣に議論されていない重大な憲法問題がある。その一つが、内閣の臨時国会の召集義務を定めた憲法53条後段の運用の問題だ。

 新型コロナウイルス対策の予算などを議論するため、野党4党は7月16日、憲法53条後段に基づいて臨時国会の召集を求めた。
 しかし、閉会中審査が散発的に開かれるだけで、菅義偉前首相は2カ月以上も臨時国会を開かず、退陣した。岸田首相を選出するための臨時国会が10月4日にようやく開かれたが、衆参両院で首相の所信表明演説と代表質問が行われただけで同月14日に衆院は解散された。実質的な臨時国会での審議はなかった。
 憲法53条は、衆参いずれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があった場合、「内閣は、その召集を決定しなければならない」と定めている。にもかかわらず、憲法の規定は事実上無視された。

 2017年6月、森友・加計学園問題の真相解明を求めて野党が憲法53条後段に基づいて臨時国会の召集を要求したが、安倍政権は98日間にわたって応じず、臨時国会を開くと冒頭で解散した。この対応が憲法違反ではないか、と野党の国会議員が訴訟を起こしている。

 控訴審に提出された意見書の中で、元最高裁判事の浜田邦夫弁護士は、「国民の信託を受けた国会議員の活動そのものを行わせない違憲明白な行為」と指摘した。この問題はなぜ、放置されるのか。
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