https://digital.asahi.com/articles/ASPCY3D3CPCQUTIL016.html
職場の忘年会、参加したい？企業の7割「自粛」、推奨の自治体も
年末の足音が近づいてきた。緊急事態宣言が明けた街の居酒屋には「忘年会予約」の貼り紙も。SNSで意見を募って取材する「#ニュース4U」で、「職場の忘年会に参加したいかどうか」を聞いた。そこから見えてきた、日本人の忘年会への思いとは。
「会社の忘年会 私は参加したくないです」。50代の女性は意見に迷いがない。勤める宿泊施設では2年連続で忘年会は開かれない。「正直ほっとしている」と話す。
コロナ前の忘年会では30人ほどの同僚が強制的に参加。歌って踊って仮装して。1カ月前からステージ準備に余念が無い同僚を冷めた目で見てきたという。「まさに昭和の忘年会。休むことは許されない。金欠だと言えば割引してまで参加させようとする」と振り返る。
職場の一体感を高める親睦の他に、「出世のため、自分を売り込む場だった」とも言う。ステージ上では、1年間の仕事の内容を発表。上司の下には部下が群がる。「宿泊業務では連携が重要なので、普段からコミュニケーションは十分とっている。コロナも油断できない状況。今後、忘年会があったとしても私は行きません」
寄せられた意見で多かったのが、「気をつかうから参加したくない」「会社の宴席は苦痛以外の何ものでもありません」という職場の忘年会反対派だ。
コロナ禍で職場の忘年会は大きく変わった。ランチで高級弁当や商品券を出したり、オンラインを活用したり。「飲み会もリモート。お酒を飲まなくても気を使わなくて済むし、気楽でありがたい。今後もずっとこの方式が良い」という声も寄せられた。
一方、職場の忘年会だからこその良さもある。
大阪府の高校教師の男性（26）は「参加したい」と言う。オンライン授業の準備や保護者への説明。コロナ禍で仕事は増えた。「日々忙殺されている。職員室での会話も最低限にと言われているので、他の教師と話す時間はない」。
コロナ発生後から働く教師とはマスク越しでしか話したことがなく、「生徒から評判を聞く程度。それぞれが困っていることも共有できていない」。かつて参加した忘年会では、教師それぞれの教育哲学を議論し合い、育児や介護で普段は飲み会に参加できない教師の新たな一面も知ることができたと話す。
ただ、この高校では9月まで一時休校や時差登校、クラブ活動の休止などの措置をとってきた。忘年会を開催するかどうかはまだ決まっていない。「忘年会は職場の関係作りに有益だったが、生徒が我慢している以上、楽しいことは自粛するべきなのだろう」
起源は室町時代？
東京商工リサーチが10月に実施したアンケート（有効回答8174社）で、忘年会か新年会を開くかを尋ねたところ、70・47%が緊急事態宣言やまん延防止等重点措置に関係なく「開催しない」と回答した。コロナ禍の昨年12月は94・2%で、開催する企業は増えつつあるようだ。
忘年会を推奨する自治体も増えている。山形県鶴岡市は10月、市職員に対し、飲食を伴う会食の参加を呼びかける文書を発表した。新潟県見附市も、市民が10人以上で開く忘・新年会の飲食代の一部を補助する。
さらに、飲食店を利用する際の目安も緩み、大人数の会食も開きやすくなってきた。政府は今月19日、ワクチン接種や検査の陰性証明を示した人は制限を緩和する「ワクチン・検査パッケージ」制度を活用し、飲食店の人数制限を撤廃。島根県も、「コロナの感染状況が改善している」として飲食店を利用する場合の目安を12人以下から16人以下に緩和した。丸山達也知事も「まずは忘年会などの計画を」と呼びかける。いずれも経済の活性化が狙いだ。
社会学者の園田英弘さんの著書「忘年会」によると、室町時代の皇族の日記に、年末の歌会で酒を飲み、乱舞する描写が出てくる。「年忘（としわすれ）のよう」という記述があり、「忘年会の一応の起源の一つ」とされる。さかのぼって奈良時代には、日本人は職場で酒食を囲んでいた。新元号「令和」は、九州・大宰府の公邸での開宴の辞から採られたものだ。
なぜ、日本人は忘年会を開くのか。「忘年会で憂さ晴らしができた、人間関係が円滑になったという体験があると、たとえ旧来の価値観だと気付いていても逃げ出せなくなる」と筑波大の原田隆之教授（社会心理学）は分析する。
心理学では「強化」と言う。おいしいレストランの常連になる。安いスーパーに何度も通うのも同じ心理だ。忘年会に楽しい思い出がある人は、師走が近づけば「自動的にその思い出が浮かび、忘年会をやらなければいけないと感じる。
