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コカ・コーラBJH、五輪で見えたシェア追求の限界

コカ・コーラボトラーズジャパンホールディングス(コカBJH)にとって2021年、東京オリンピックの夏は苦いものだった。21年1〜6月期の連結決算(国際会計基準)は事業損益が147億円の赤字。7月以降の売れ行きもコロナ前の19年夏を下回ったもようだ。スーパーなどへのリベートを積み増して市場シェアを追求する営業スタイルでは「薄利多売」さえ難しい状況に陥っている。

「完全なネガティブサプライズ」(証券アナリスト)と受け止められた1〜6月期の事業損益の赤字は、コロナ厳戒ムードだった前年同期の約2倍にふくらんだ。発表翌日の株価は一時15%安まで急落した。販売数量が2億1700万ケースと500万ケース増えたにもかかわらず、なぜ利益につながらなかったのか。

五輪の有力スポンサーである米コカ・コーラグループの1社として費用がかさんだ面はある。しかし、最大の敗因はコロナ下の巣ごもり需要を集めたスーパー、ドラッグストアなど量販店の売り場でつまづいたことだ。事業利益の変動要因をみると、リベートなどが77億円もの減益要因になっていた。
野村証券の藤原悟史リサーチアナリストは「数量をかせぐためにスーパーやドラッグストアで安売りに走っているようにみえる。一度下がった価格を戻すのは難しい」と警鐘を鳴らす。

ライバルの飲料メーカーと取引条件を競いながら売り場スペースを押さえるには、取引数量に応じてスーパーなど納入先に戻すリベートは欠かせない。こうした取引数量に連動する「売上控除リベート」が含まれる販管費は4〜6月期に918億円と前年同期に比べて14%増えた。

コロナ下の飲料業界では「コカ・コーラとサントリーが棚の争奪戦を繰り広げ、価格競争が激しくなっている」との声が聞かれていた。コカBJHは東京五輪の夏商戦に向けて営業のアクセルを踏んだが、シェアを追求するあまり利益コントロー
そして五輪が開幕した7月以降の商戦も「人の移動がなくなり、想定よりも五輪効果はなかった」と業界関係者は口をそろえる。調査会社の飲料総研(東京・新宿)によると、コカ・コーラの国内の7〜8月の販売数量は前年同期比7%増にとどまった。約9割を占めるコカBJHも同じ傾向とみられる。これはコロナ前の19年同期にまだ3%及ばない水準だ。

コカBJHの1ケース当たりの納入価格は、27年ぶりに大型ペットボトルを値上げした19年12月期にスーパー向けで44円、ドラッグストア向けで54円上がった。しかし、コロナ下の安売り競争によって値上げ効果は前期までにほぼ帳消しになった。

同社の稼ぎ頭である自動販売機はどうか。一般には消費増税などで小売価格が上がってきたイメージがあるが、自販機でポイントがたまるアプリ「コークオン」などの販促費用を含めると、むしろ下落傾向にある。飲料総研によると、コカBJHなど日本のコカ・コーラグループは20年、コロナ下で収益力が落ちた約2万台の自販機を削減し、商品補充などのコストを削った。



コカBJHが最重要視する営業目標は利益ではなく売上高ベースの「金額シェア」だ。営業現場で採算性の検討がおろそかになるリスクをはらむが、「中長期で成長する基盤としてシェアが必要」(広報部の柿野真美課長)という同社のスタンスは揺るがない。

業界随一といわれるシェア重視の営業には、地域ごとのボトラー12社が17年までに統合した同社発足の経緯も関係している。19年12月期には発足で生じた約600億円ののれんを全額減損した。コスト構造改革のため20年には約900人が希望退職。自販機の成長が期待できない中でスーパーなど「手売り」の市場でシェアを落とすと、もう一段のリストラを迫られかねない。

巻き返しの展望は見えにくい。自販機で1本160円の500ミリリットル「コカ・コーラ」が、スーパーでは平均78円ほどで売られる。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の角山智信シニアアナリストは「砂糖やコーヒー豆などの原料高も重しになり、値上げも難しい。当面は大幅な限界利益の改善は見込みづらい」とみている。

コカBJHは今春、「コスタコーヒー」「綾鷹カフェ 抹茶ラテ」といった高付加価値商品を相次ぎ投入。19年から本格販売する缶酎ハイ「檸檬堂」もヒットしたが、同社全体の収益を大きく押し上げる勢いはない。

株価は18年の高値4815円の3割強の水準で本格回復の兆しが見えない。市場の評価では、コロナ下でも黒字を確保したサントリー食品インターナショナル、伊藤園など競合飲料メーカーとの格差が広がっている。五輪商戦はコカBJHのシェア追求の限界を投資家に印象づけたようだ。