https://www.bbc.com/japanese/59500745
女子テニス協会、中国での大会開催を停止 彭選手の安否不明で
中国のテニス選手、彭帥さん(35)の安否が懸念されている中、女子テニス協会(WTA)は1日、中国での大会開催を直ちに全面停止すると発表した。
開催停止は、香港で予定されている大会も含む。
彭さんは先月初旬、張高麗前副首相(75)から性的暴行を受けたと告発。以来、公の場で姿が見られていない。
WTAのスティーヴ・サイモン最高経営責任者(CEO)は、彭さんが「自由で、安全で、脅されていない」か「真剣な疑念」を抱いていると述べた。
「良心に従えば、WTAの選手たちに中国で競技をするよう求めることはできない」
WTAはこれまで繰り返し、彭さんの告発についての完全な調査を要求している。
選手やスタッフにリスク
サイモンCEOはこの日、長文の声明を発表。中国で来年、WTAの大会を開いた場合に選手やスタッフが直面しうるリスクについて「かなりの懸念がある」とし、次のように主張した。
「中国の指導層はこの非常に深刻な問題に対し、信頼できる方法で対処していない」
「権力者が女性の声を抑え込み、性的暴行の訴えをうやむやにできるなら、WTA創設の理念である女性の平等という基本理念が大きく後退してしまう」
「そうしたことがWTAと選手たちに起こるのを、認めるわけにはいかない」
「ビジネスより大きい」
中国では過去2年間、新型コロナウイルスの流行により、WTAの大会は開かれていない。
ただWTAは近年、ツアーの開催で中国の出資に大きく依存している。パンデミック前には、大金が注ぎ込まれた大会が多数、中国で開かれるようになっていた。
2019年のシーズンには、中国で9大会が開催された。シーズン最終戦のWTAファイナルはその1つで、賞金総額は3040万ドル(約34億円)に上った。
サイモンCEOはBBCの取材に、中国で大会を開かないことによる財政的な影響を心配していると表明。だが、彭さんの問題は「ビジネスより大きい」と話した。
「簡単に背を向けられるようなことではない」
「私たちが要求を撤回すれば、性的暴行の訴えに敬意と真剣さをもって対処しなくても大丈夫だと、世界に告げることになる。だが、大丈夫ということはない」
選手らが決定を支持
WTAの決定に対しては、女子テニス関係者らから支持の声が出ている。
元世界ランキング1位でWTAを創設したビリー・ジーン・キングさんは、WTAの対応をツイッターで称賛。
「女性のスポーツ界で女子テニスがリーダとなっている理由が、今回のことからわかる」、「WTAは選手を支え、歴史の正しい側に立っている」と投稿した。
ウィンブルドンで2度優勝しているペトラ・クヴィトヴァさん(チェコ)、全米オープンでベスト8入りしたシェルビー・ロジャースさん(アメリカ)、4大大会を18度制覇したマルチナ・ナヴラチロヴァさんらも、WTAの決定を支持するツイートをした。
英下院のデジタル・文化・メディア・スポーツ委員会のジュリアン・ナイト委員長も、WTAの姿勢を歓迎。「他のスポーツにも、こうした結束とモラルの明確さを示すことを望む」とした。
中国では男子プロテニス協会(ATP)も大会を開催している。
サイモンCEOはBBCスポーツの取材で、ATPに同様の対応を取るよう求めはしないと説明。ATPはWTAの姿勢を支持しているとし、次のように話した。
「(ATPが大会開催を停止しないことで)私たちの立場が損なわれるとは思わない」
「私たちの立場はWTAと女子選手のために最善を尽くすことであり、その立場は変わらない」
「他の団体は、自分たちで適切だと考える決定をするだろう」
「選択の余地なくなった」
サイモンCEOはまた、中国当局が彭さんの訴えに「正当に対処する」ことについて、期待を持ち続けていると述べた。
同時に、厳しい姿勢も示した。
「ここまでの事態になったのは非常に残念だが、中国指導層によって、WTAは選択の余地を失った」
「私たちが求めている対応を中国が取らない限り、中国で大会を開いて、私たちの選手とスタッフを危険にさらすことはできない」
中国は先月、「意図的かつ悪意をもって(この問題を)誇大に扱うのはやめるべきだ。まして政治問題化するのは認められない」との声明を発表した。
張前副首相は、告発に対してコメントしていない。前副首相は2018年に退任している。