考え込んでしまった。「日本通史」をうたう作家・百田尚樹さんの文庫版「日本国紀」(11月17日発売)を読んで、である。単行本に対し指摘された数々の誤りが修正されたのは良いとして、なおも基本的かつ重大な誤りが放置されていたからだ。本を作るとは、そういうことなのか。【吉井理記/デジタル報道センター】

 お断りしておく。

 百田さんの小説はいくつか読んだ。時代小説「影法師」は、多くの名作を残した藤沢周平さんのファンである記者も引き込まれた。

 だが、帯書きで「満を持して、待望の文庫化!」とアピールした文庫版「日本国紀」には、あきれかえった。

 記者は3年前、単行本初版(2018年11月10日発行)を発売日に買った。近現代史の叙述に関心があったためだ。思った通り、右派論壇で言い古された陰謀論めいた歴史認識や資料のつまみ食いが散見されたが、一読して分かる誤りが次々に見つかり、力が抜けた。「日本通史の決定版!」(単行本帯書き)どころか、初版から第9刷にかけて少なくとも50カ所以上の修正を重ねるお粗末さだった。

 実は重大な歴史的事実の誤りは、修正された箇所のほかにいくつもあったのだが、さすがに文庫化する時に修正するだろうと信じ、特に指摘する気にもならず今に至っていたのだ。

https://mainichi.jp/articles/20211201/k00/00m/010/206000c