うどん県「最安級」の店閉店へ 40年以上一杯100円「一平」

 「安い、早い、うまい」が特徴の香川県名物さぬきうどん――。
1976年の創業以来、1度も値上げをしなかった「うどんの一平」(高松市福岡町)が28日で店を閉じる。
かけうどんの小が税込みで1杯100円。県内でも“最安級”として知られ、客からは閉店を惜しむ声が上がっている。

 のれんをくぐると、店主の道岡弘伸さん(82)の「何にしましょうか」という元気な声が奥から聞こえてきた。
かけうどんを注文し、熱い蛇口を自分でひねってどんぶりにだしを注ぐ。「セルフサービス」と呼ばれるタイプの店だ。
細めのツルツルした麺に、あっさりしただしが合う。店は道岡さんと妻の芙美子さん(83)が切り盛りし、
毎朝4時から自家製うどんの麺やだしを仕込んできた。

 道岡さんは元々、高松市内でスナックを経営していた。40歳で「昼の仕事がしたい」と店舗兼住宅を購入し、うどん店を開業。
当時は競合店も少なく、店は大繁盛した。「近くの工場で働く工員さんがたくさん来てくれて、ツキがあったね」と振り返る。

 かけうどんの「大150円、小100円」の値段設定は、開業から40年以上、変えていない。天ぷらはどれも一つ100円。
周囲の工場が閉鎖したり競合店が増えたりして客は減っているが、「お客をつなぎとめたい」と値段は据え置いている。

 さぬきうどんに詳しい四国学院大の田尾和俊教授(情報加工学)によると、うどん店巡りが大流行して
消費がピークを迎えた2000年代以降、小麦粉など原材料費の高騰や消費増税によって値上げする店が相次いだ。
コロナ禍が追い打ちとなり、業界は苦境が続く。田尾教授は「セルフサービス店で『1杯100円』という値段は他にないのではないか」と語る。

 閉店の決め手は利益うんぬんよりも「体力や記憶力が落ち、限界を感じた」ことだと道岡さんは言う。
妻が筆で書いた閉店を告げる入り口の張り紙には「いつか何処かでお逢いした折には是非お声をかけて頂ければ幸いです」と記されている。
常連客から「やめんといて」「また来ますね」などと声を掛けられると、道岡さんは「何もしないとぼけてしまいそう。まだ働きたいね」と応じていた。

 うどんの一平の営業時間は午前10時〜午後1時半。日曜祝日は休み。【西本紗保美】

https://mainichi.jp/articles/20211214/k00/00m/040/167000c