冬季の被害警戒 対策徹底で被害者減 日本・千島海溝地震想定
https://mainichi.jp/articles/20211221/k00/00m/040/005000c?cx_fm=mailhiru&cx_ml=article&cx_mdate=20211221
日本海溝沿いと千島海溝沿いで起きる二つの巨大地震の被害想定が明らかになった。冬は早期避難が難しく、寒さも容赦なく人々を襲うため、死者数も膨らむ。最悪の場合、日本海溝地震で約19万9000人、千島海溝地震で約10万人が亡くなるとされている。一方で内閣府は、防災対策を徹底すれば死者数は8割減らせると強調する。
最悪被害は「冬・深夜」の発生
「積雪と寒冷の影響は大きい。なるべくシビアなコンディションにおける被害想定を出したかった」。想定する地震の季節と時間帯を「冬・深夜」「冬・夕方」「夏・昼間」とした理由を内閣府はそう説明する。昼間は正午、夕方は午後6時、深夜は午前5時と想定し、「冬・深夜」「冬・夕方」は限られたケースに過ぎない。それでも、被害の大きさは無視できない。
想定される死者数が最悪となるのは、いずれも「冬・深夜」に発生し、早期避難率が20%にとどまった場合で、日本海溝地震は約19万9000人。「冬・夕方」が約16万2000人、「夏・昼間」は約14万5000人。千島海溝地震では順に約10万人、約9万4000人、約9万人。時間帯が異なり単純に比べられないが、季節の違いが被害の多寡につながる傾向は読み取れる。
冬の被害が大きい最大の理由は、早期の避難が難しくなることだ。被害想定では、2011年の東日本大震災で徒歩避難の平均時速が2・24キロだったことを踏まえ、積雪時に歩いて逃げる際の時速は1・79キロ、凍結時は1・61キロ、除雪されていない豪雪で1・08キロと仮定した。千島海溝地震では、地震が起きて津波が到達するまでの時間は最短10分。この間に避難できる距離は、路面状況にもよるが400メートルを下回る。
津波から逃れても、厳しい寒さにさらされる間は危険が続く。体の中心部の体温が35度以下になると陥るとされる低体温症のリスクが高まるからだ。避難時に衣服がぬれると、熱伝導率の高い水が体温を奪う。体が震えてろれつが回らなくなり、思考力が低下し、命を落とす危険もある。
暖を取るなどしなければ死亡リスクが高まる「低体温症要対処者」は「冬・深夜」に地震が起きた場合、日本海溝地震で約4万2000人、千島海溝地震で約2万2000人に上る。
被害想定の参考とされた山岳遭難における低体温症の研究によると、体感温度が氷点下30度になると2時間程度で心肺停止に至る。また内閣府によると、体がぬれた場合は10度、風速が毎秒1メートル加わるごとに1度、体感温度はそれぞれ下がるとされている。北海道釧路市の平年1月の最低気温の平均は氷点下9・8度。氷点下30度の体感温度は容易に起こりうる。
平時であれば観光資源となる流氷も被害を拡大させる。北海道の太平洋側、オホーツク海側に流氷が漂着する時期に津波が起こると、流氷が建物にぶつかるため、津波による全壊棟数は日本海溝地震で3000棟、千島海溝地震で5000棟増える見込みだ。
内閣府によると、猛吹雪や火山災害など他の災害も同時に起こるような「スペシャルシビアコンディション」の状況下で地震が起これば、被害のさらなる拡大が懸念される。