https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD150YV0V11C21A2000000/
探究型入試で応用力問う スマホ持ち込みOKも
知識偏重を脱し、優秀な学生の確保狙う
知識の量より思考力や表現力を評価する「探究型入試」を導入する大学が増えてきた。従来の総合型選抜(旧AO入試)は課外活動なども評価対象だが、探究型入試は調査・発表など教科学習の応用力を純粋に評価する。来年春から運用の始まる新しい学習指導要領では探究学習が取り入れられ、こうした学びに注力する学生を大学のリーダーとして獲得する狙いもある。
みなさんは、今、2040年2月17日の日本にいるとします――。
これは産業能率大学が21年度入試で初めて導入した「未来構想方式」の問題の冒頭だ。架空の村「未来村」の歴史を記載した課題文や図表を読ませ、存続の危機に陥るに至った分岐点や、どのような施策を採るべきだったかなどを考察させる問いを投げかける。
多様な回答が予想される問題文に加え、際だった特徴が入試会場にスマホなどの持ち込みを認めたことだ。大学入学共通テストの3教科の得点率が50%を超えるなど一定の学力は必要だが、受験生は政府統計や辞書などの情報を参考にしながら自由に論述できる。
入試企画部の林巧樹部長らが入試の構想を練り始めたのは17年ごろ。知識偏重の学びを脱することを目指した文部科学省の「高大接続システム改革会議」の最終報告を受けてのことだ。「ネットですぐに情報を得られる今の高校生は、すぐに正解を求めたがる。しかし実社会では答えのない課題に挑まないといけない」と林部長。スマホなどの活用を認める方向に話が進み、現場の教員からも大きな異論はなかった。
採点では「情報分析力」や「論理性」など複数の評価項目を設ける。大学院入試で複数教員が口頭試問にあたるように、3人の教員の評価で平準化を図る。22年度は試験日程を2回に増やし、共通テストの5教科の得点によって学費を減免する制度も始める予定だ。
1年生の竹村梨花さん(19)は高校で放送部に所属し、地元のラジオ局で地域の話題を扱う番組に携わった。「地域課題に向き合った経験は入試で生きる」という予備校講師の勧めで、受験を決めた。大学では沖縄のサンゴ礁の白化を防ぐビジネスを課題解決型学習の中で考案するなど、思い描いていた学びを実現できているという。「メーカーなどのマーケティングで力を発揮したい」と将来の進路も絞り始めた。
桜美林大学は22年度入試から「探究入試 Spiral(スパイラル)」を始めた。探究学習の報告書などを提出し、2次審査でプレゼンや質疑応答を計約25分行う。入試の流れは従来の総合型選抜のようだが、教科学習で培った探究力を評価する点が異なる。
20年近く総合型選抜を実施してきたが、入学部の高原幸治部長は「高校時代の学びや経験が大学の学びに直結しない場合もある」と強調。探究学習に必要な問いを立てて言語化する力は「社会に出てからも必要になる」と話す。新入試により主体的に学ぶ学生を確保する狙いがある。
同大は高校から社会までの「高大社接続」を意識してきた。高校生向けに探究学習を支援するプログラムを提供すると同時に、大学ではフィールドワークやインターンシップなど体験型の学びを取り入れる。高校と大学の両方の探究学習の「接着剤」となるのが今回の入試ともいえる。
各校が特色のある入試を打ち出すのに対し、高校教員からは複雑な思いもにじむ。都内の中高一貫校の教諭は「多様な生徒が大学で学ぶ機会が増える」と評価する一方、進学実績の観点から「探究力に秀でた学生であっても、まずは早慶など難関大の総合型選抜を勧める」と話す。今後は探究力の高い学生の奪い合いになる可能性も高い。