https://www.newsweekjapan.jp/amp/tokyoeye/2021/06/post-73.php

日本の書籍や雑誌、テレビ番組の字幕で「中国人名の現地読み(中国語読み)」がよく使われている。
ニューズウィーク日本版でも例えば、習近平に「シー・チンピン」とルビが振られているが、あれである。

日本の中国歴史小説が大好きな私は、これまで井上靖や水上勉、陳舜臣らの作品を数多く読んできたが、
ひと昔前なら人名に日本語読みのルビを付けていた歴史小説にも、いつしか中国語読みが散見されるようになった。

ところが、この現地読み、在日中国人にとっては悩みの種だ。
片仮名の表記を読んでも中国語の漢字を連想することが難しく、また日本人がそれを口にしても、何を指しているか分からないのである。

漢字にルビならまだいい。先日出演したテレビ番組では「第2のファン・ビンビン騒動」が取り上げられたが、
字幕やスタジオの解説ボードに書かれた名前は片仮名のみ。漢字は一切使われなかった。

ご存じない方のために説明すると、中国で現在、ジェン・シュアンという女優に巨額脱税疑惑がかけられており、
それが3年前にあった女優ファン・ビンビンの脱税事件とそっくりなのだ。

鄭爽(ジェン・シュアン)と范冰冰(ファン・ビンビン)。2人とも超の付く有名人で、在日中国人たちも漢字を見ればすぐにピンとくる。
ところが片仮名だけだと、頭の中が「?」で埋め尽くされてしまう。

この事件はネットニュースでも片仮名だけの表記が多く、「人名表記が意味不明」だと中国人の間で話題になった。

片仮名のように音をそのまま表現する表音文字を持たない中国人は、日本人の名前の漢字を中国語で発音する。

逆もしかりで、母音も子音も少ない日本語で中国語の音を表現するのは至難の業だ。
実際、中国人がパッと聞いて分かる片仮名表記はほとんどないだろう。

相手に伝わらないのであれば、何の意味もない。しかもこの片仮名表記、各社で統一されているわけでもない。

シー・チンピンもいれば、シー・ジンピンもいる。これでは、ただでさえ分かりにくい中国人の人名表記がさらに分かりにくくなる。

聞くところによれば、中国人名の現地読み表記が最初に採用されたのは、2002年の朝日新聞の記事。
それがその後、20年近い歳月をかけ徐々に広まってきたようだ。