男たちが抱える「弱音を吐けない」という重い病
男性の自殺者が多い背景に「男らしさ」の呪縛

女性より顕著に多い男性の自殺者数
短期的に観測されたデータについて、すぐに原因をつきとめることは難しいのですが、自殺については長期的に確認できる1つの傾向があります。
長年にわたって、男性のほうが女性よりも常におおよそ1.5〜2倍も自殺者数が多いのです。

2020年4月から10月までの自殺者数を男女別で確認してみても、どの月でも男性の数が顕著に多いことがわかります。男性という性別が自殺に影響を与えているのは明白です。
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2016年に実施された厚生労働省による「自殺対策に関する意識調査」の結果からは、男性に特有の意識が見えてきます。

まず、「あなたは、悩みを抱えたときやストレスを感じたときに、誰かに相談したり、助けを求めたりすることにためらいを感じますか」
という質問にたいして、「そう思う」(「そう思う」「どちらかというとそう思う」の合計、以下同様)は、女性が41.9%だったのに対して、男性では52.4%と10%以上のひらきがありました。


次に、「あなたの不満や悩みやつらい気持ちを受け止め、耳を傾けてくれる人はいると思いますか」という質問に「そう思う」と答えた割合は、
女性の89.1%に対して、男性は76.4%とやはり女性よりも低くなっています。

「男らしさ」に秘められた苦痛
このように男性は頼れる人が少ない傾向があるわけですが、男性の悩みを誰が受け止めてくれるのかという問題を考えるとき、
〈男らしさ〉にとらわれているのは男性自身だけでないことを理解することが大切です。臨床心理士のテレンス・リアルは『男はプライドの生きものだから』(講談社)の中で、
次のように述べています。

「男は脆弱であってはならない。苦痛は乗り越えなければならない。それができないことは恥である」。男自身がこう思っているだけでなく、
家族も友人も精神保健の専門家ですらそう信じているのである。私はこの秘められた苦痛こそが男性が直面する問題の核になっていると確信する。
自分が悩みを聞く相手だとして、いつも会社や家庭で頼りにされている男性が弱音を吐く場面を想像してみてください。
この人はなんで急にこんなに「情けなくなってしまったのだろう」とがっかりしたり、驚いたりしてしまわないでしょうか。

悩みを抱えている人がいざ相談しようとしても、相手からのリアクションがこのようなものであれば、気が引けてしまうのも当然です。

男性の相談を聞く側も、「いい年をした男性が悩みや葛藤を抱えているわけがない」などといった予見を持たないことが重要です。
たとえ、弱音を吐く姿が自分の思う〈男らしさ〉とは違うものであったとしても、それを表情に出したり、ましてや言葉にしたりすることがないようにしたいところです。

もちろん、これですべて説明できるわけではありませんが、男性の自殺者が多い背景には、明らかにこのような〈男らしさ〉の問題があると言えるでしょう。
https://toyokeizai.net/articles/-/388214