https://news.yahoo.co.jp/articles/494d8e761729d0dd48f2251a95436c734d020cc2

 すべてにおいて白黒はっきりしているところがいいのかもしれない――。
 あいまいなことへの理解が不得手、お世辞、皮肉、嫌みなどが理解できず融通が利かない。ルーティンを崩されることを嫌がり、こだわりが強い。
これらの特性を持つといわれるのが、かつてアスペルガーと呼ばれ、今では自閉症スペクトラムと呼ぶ発達障害
およびそのグレーゾーンの人たちだ。
 自閉症スペクトラムの診断を受けたケイコさん(43歳・女性)は、発達障害の特性に由来する「思い出し怒り」などを原因として
家族とは疎遠となり、旦那とも離婚することになってしまった。

●「思い出し怒り」によるパワハラ
 離婚後、ケイコさんにすぐに転機が訪れた。たまたまその日、日常とは異なる出来事が職場で続いた。ケイコさんの心の中は「モヤモヤ」を
上回る「ピリピリ」した状態だった。たまたま仕事の段取りについて相談にきた部下がいた。打ち合わせ時、その部下のゆっくりと丁寧に話す
様子がケイコさんの癇に障る。そして部下による過去、といっても2年くらい前の話だが、仕事上の些細なミスでケイコさんが迷惑を被ったことを
思い出した。またもや記憶の彼方から引っ張り出してきたと言ってもいい。
 「正直、この時のことはここまでしか覚えていないのです。後はずっとわたしが部下を指導していたというか……」
 後で上司らから聞いたところでは、ケイコさんは着席の状態で、部下を約1時間、起立させたまま、ずっと激しい言葉で罵り続けたという。
「仕事でミスをするのは親の教育がなっていないからだ」「親は情けなくて泣いてるぞ」「ふざけた顔だ」などなどの暴言である。
 オフィス内での話だ。他の社員もその様子を見ていたがケイコさんよりも上席の者が誰もいなかった。同様のことはそれまでにも
何度かあったようだ。他の社員たちも腹に据えかねる思いがあったのだろう。その様子は別の部下に動画撮影された。
そして、これが人事のセクションに提出された。

●自閉症スペクトラムの診断がおりる
[ 結果、パワハラ事案として厳重注意処分が下された。上司からは「再就職先を責任持って紹介するから円満にお辞め頂くことを
お勧めする」ということだった。
 「新卒で入って、やりがいもある仕事を任されていた職、それを奪われてはじめて、自分と向き合いました。それで最初にしたのが
前の夫が勧めていたメンタルクリニックなどへの受診です」
 受診したメンタルクリニックでは、「アスペルガー、自閉症スペクトラムです。診断つきますね」と医師からあっさり言われた。
 「自分の性格ではなく、障害であるということがわかった。それが救いでした」
 職を追われ、紹介された再就職先を断り、ひとり自分と向き合っていたケイコさんは、その分野ではよく知られたカウンセラーに
会ってみた。「なるだけ人と関わらない仕事をしなさい」というアドバイスを受けた。
 英語が堪能なケイコさんは翻訳の仕事をはじめた。自宅での仕事が多く人と関わることがすくないのでストレスは随分と軽減された。
だが、仕事をしていない時間、ふと、一人暮らしの部屋にいると、過去、自分が関わった人への「思い出し怒り」がふつふつとこみ
上げてくる。精神医学などでいう「反芻思考」だ。過去のネガティブな記憶を思い出し、悩み続けて抑うつ気分を増長させる考え方である。
 「そんなとき、気を紛らわせようと手にしたのが英語版のこの本でした。評判の本だったので仕事の参考になればと思いまして」
 その本こそが、当時、話題となったヒット作、『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』(E.L.ジェイムス著、池田真紀子訳、早川書房)の原書だ。
SMを題材にした同書は、これまでの知られざるSとMそれぞれの心の内面とその行動を活写ぶりが評判の問題作だ。