しかし当の日本人が「日本は貧乏な国になっている」と自覚しているかどうか……。
「早朝に犬の散歩をするとウーバーイーツの配達バッグを背負った若い子が突っ伏して寝ている姿をよく目にしますが、彼らもアマゾンの配達を請け負う個人ドライバーも、いわゆる日雇いです。配達が1件もなければ、その日の収入がないという生活を送っている。
今は正社員が減って4割が非正規です。飲食業や旅客サービス業では、非正規から先に解雇や雇止めにあっている。その人たちが今度は、単発の仕事を請け負う日雇いのギグワーカーになっているわけです。
相当まずいと思いますよ、この国は。『そろそろやばいよね』と気づいている人ももちろんいるでしょう。でも僕の感触だと、危機感を共有している人は国民の3割いないんじゃないかという気がしています」
この状況を抜け出す方法は果たしてあるのだろうか。
「たとえば本田宗一郎的な人物がいて、全世界が飛びつくような商品を開発するとか。そんなイノベーションが起きない限りは、ちょっと無理だと思います。僕は通信社の記者だった時に経済部にいたので統計を読む力はあるんですが、数々の経済統計のデータを見ていると、この国はもう先行きがないということが如実にわかるんですよ。
これまで、大不況が何回かありました。でも結局は企業が我慢し、国民にも我慢を強いて、30年間じわじわと景気が悪いだけで給料が半分になることもなかった。変わらない賃金で同じような経済社会が30年続いたために、人々の感覚は麻痺しているんだと思います。給料が10分の1にならなかったのがかえってよくなかったんです。
僕は悲観的な人間ではないですが、冷静に公のデータを見ていくと、もうこの国は限界に近づいている。それが『アンダークラス』に込めたメッセージです」
『アンダークラス』が連載されたのはコロナが流行する前の2018年から19年だ。そのときのタイトルは「2025」。つまり、2025年の日本社会をテーマにした作品だったのだ。
「僕はいつも5年、10年先を描こうと意識して作品を書くんです。ところが書いている間に現実が追い付いて、単行本が出る頃には現実が追い越しているという状況が、ここ何作か続いています。それだけこの国が傷んでいるということでしょう。
カナダに留学しているせがれには、日本は成長しない国だし賃金も安いから帰ってくるなと言っています」
目の覚めるようなイノベーションは起こらないまでも、2022年は少しでも明るい兆しが見えてくることを期待したい。
https://news.yahoo.co.jp/articles/d2fc3905f0339e1dd6ed60e3dfcc10cbeb90aed9