18歳以下の子どもへの10万円給付が大阪市などで始まっている。合わせて生活が苦しい世帯向けの10万円給付も行われる。
一方で、その日の食べ物にも困っているのに10万円が届かない人たちがいる。
12月22日午前10時半ごろ、大阪市北区の中之島公園の一角に60人ほどの列ができていた。パンやインスタントラーメン、弁当といった食料品を、スタッフがポリ袋に詰めて渡していく。
気温は約10度、手がかじかむ寒さだった。
大阪北教会は月2回、炊き出しを行っている。65歳の男性は配られたコーヒーを飲んで一息ついた。「心も体も温まる食事は本当にありがたい。2、3日はしのげる」。硬い表情が少しだけ緩んだ。
路上生活を送るようになって1年が経つ。福岡県の倉庫で荷物の積み下ろしのパートの仕事をしていたが、コロナ禍で収入は激減。職を探しに大阪に出てきたが、「甘かった」。
キャリーバッグを引っ張り、リュックを背負い、手提げカバンを持って、炊き出しに足を運んで飢えをしのぐ。ラジオを聴くことがささやかな楽しみだ。
生活が苦しい人への10万円給付の制度は生活保護の受給者は対象だが、男性は親戚に知られるのが嫌で申請しておらず、住所もない。
「もらえるなら、もらいたかったよ」。内閣府によると、支給には住民登録が必要だという。
公園の隣にある大阪市役所の庁舎を眺めながら、男性は言う。「ニュースから流れてくる行政の政策は底辺にいる僕たちとかけ離れている感じがします」
「困っている1人親に給付、理解できるが……」
炊き出しを手伝う森江浩一さん(65)も、生活は苦しい。マンションの管理人として生計を立てているが収入は月11万円。家賃や光熱費、携帯電話の料金を支払うと手元に残るのはわずかだ。
「生活保護より収入は低い」と吐露する。支援後、余った食品をもらうこともある。
子どもへの10万円給付は、「親の年収960万円未満」の世帯が対象。一方、生活が苦しい世帯向けの10万円給付は、住民税(均等割)を払っていない年収の低い世帯が対象で、
大阪市では約3割の世帯にとどまる。子どもら扶養家族がいない場合は、前年の所得が45万円以下(給与収入の場合は100万円以下)という制限がある。
森江さんは住民税を支払っており、給付の対象外となる。子どもへの10万円について、「困っている1人親世帯に給付するのは理解できるけど、所得の高い人ももらえるのは納得できない」と話す。
大阪北教会の牧師、森田幸男さん(81)は「困っている人も多い」と、子どもへの10万円給付を評価する。一方、炊き出しで日々の食事に困る人たちがいて、教会へ助けを求めて駆け込む人もいる。
「本当に困っている人たちの現実に国は目を背けている」と指摘する。
子どもへの10万円給付には計約1・9兆円、生活が苦しい人向けには約1・4兆円の国費が投入される。専門家からは貧困対策の効果になるのか疑問の声も上がる。
大阪市立大の垣田裕介准教授(社会政策)は、「子のいない困窮者はもらえない場合が多い。もらえた家庭は一時的には助かるが、10万円で根本的な生活の立て直しは難しい」と話す。
その場しのぎの現金給付ではなく、解決策として期待できるのは相談支援の充実だという。貧困になる原因も、必要な支援も人によって違う。
ホームレスの人には生活保護の申請の付き添い、借金が多ければ債務整理のアドバイス、仕事がなければハローワークへの同行をすることで生活の立て直しにつながる可能性があるという。
全国に約1300カ所ある法に基づく自立相談支援窓口は「人員増が必要」な状態だ。
昨年、政府が国民に一律10万円を配った特別定額給付金は、貯蓄した家庭も多かったとみられる。垣田さんは「今回も貯蓄にまわる可能性があり、(貧困対策だけではなく)経済対策の効果も不透明だ。
予算をどう使うと政策効果が最も高いか、今後の支援では国はよく検討して欲しい」と話す。
https://digital.asahi.com/articles/ASPDY6GGGPDVPTIL006.html