【上野】労働組合運動や社会運動をやっている男性は
夫としては最悪のことがあります。
というのは、社会運動って正義とか大義のためにあるものじゃないですか。
これが仮にモーレツサラリーマンだったら、
「あなたがやっているのは、せいぜい会社の利益のためでしょう?」
と言えるんだけど、社会運動をしている夫が
走り回って家を顧みなくても、
同じようには言えないというのを聞いたことがあります。
例えば、いわさきちひろさん(絵本作家/1918〜1874年)の夫の松本善明さん(弁護士・共産党所属の国会議員/1926〜2019年)も、
戦後最大の冤罪事件といわれた松川事件なんかを
手がけたりして立派な人ですが、
朝早く家を出て夜遅くまで帰らない。
だから、ちひろさんが女家長で、両親や子どもの世話、
家計の維持まで全部やって、もうボロボロだったらしいんです。
で、ある日帰ってきた夫に「あなたが悪い」って言ったんですって。
そしたら善明さんが無邪気に
「僕のどこが悪い? だって、僕は一日中いないんだよ」って(笑)。
【樋口】善明さん、何もしなくてもいいと思ってる(笑)。
【上野】これもすごい理屈でしょう? でも、ちひろさんが立派なのは、それを聞いて唖然として思わず吹き出して終わっちゃったこと。
【樋口】それで終わっちゃっていいのかしらね。
【上野】そうなの。でも、愛があったからいいんでしょう。
【樋口】だけど、男の人って必要なときに出てきて、
面倒くさいときにすーっと引っ込んでくれる
幽霊のような存在が、一番いいかもね。
男にとっての女も同じかもしれないけれど。
https://president.jp/articles/-/41029?page=1