東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の開催が近づいてきました。公式記録映画の監督に,世界的な評価を得ている河P直美監督が就任したことは既に大きく報道されましたが,このことは実は大きな意味を持っています。それはこの東京大会が,「記録映画」を撮ることに明確な価値を置いたということです。例えば近年の大会を,テレビでは釘づけになって観たけれども,映画作品として記憶している人はまずいないでしょう。そんな時代の流れにあって,かつて1964年東京大会が市川崑監督の傑作『東京オリンピック』を生んだように,来年の大会は,「映画」という表現形式でも世界のアスリートたちの躍動を捉えようという原点に戻ったのです。

国際オリンピック委員会(IOC)が,記録映画の製作を各大会に義務づけたのは1930年のことで,各国の名監督たちが,多数のキャメラマンや録音・編集技師などのスタッフを従えてこの難事業に挑戦してきました。つまり市川監督のほかにも,レニ・リーフェンシュタール(1936年ベルリン夏季大会),クロード・ルルーシュ(1968年グルノーブル冬季大会[非公式映画]),篠田正浩(1972年札幌冬季大会),イム・グォンテク(1988年ソウル夏季大会),カルロス・サウラ(1992年バルセロナ夏季大会)といった一線級の映画作家の活躍の場となってきたのです。
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