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2022年が始まって約1週間が過ぎた。
2021年の外国為替市場を振り返ると、かなり意外な通貨が世界最強の座に君臨していたのが目につく。
他でもない、中国人民元だ。

中国人民元は昨年、米ドル、ユーロ、日本円、英ポンド、豪ドル、カナダドル、スイスフラン、ノルウェークローネ、スウェーデンクローナ、
ニュージーランドドルのG10(主要10カ国)通貨に対して全面高の快挙を成し遂げた。
2021年の1年間に「人民元円」は14%近くも値上がりしており、日本人が買ったら一番もうかった通貨ペアだった。

<景気減速でも買われた元>

昨年、中国経済は大幅に減速し、1─3月期に前年比プラス18.3%だった実質国内総生産(GDP)成長率は7─9月期に同4.9%まで低下した。

そのような状況下、中国人民銀行(PBOC)は景気を支える目的で金融緩和を進めており、昨年は大手行に対する
預金準備率を7月と12月に2回も引き下げたほか、年末には1年8カ月ぶりの利下げにも踏み切った。

通常、景気が悪くて金融緩和に動いている国の通貨は、安くなるのがセオリーだ。
昨年、日本を除くほとんどのG10通貨圏では物価の上振れが顕著になったため、各中銀はインフレの抑制にかじを切って利上げを始めたり、
量的緩和をやめたり、資産購入額の削減(テーパリング)を決めたりするなど、金融政策の正常化に動く様子が観測された。

金融緩和を進めた国の通貨である人民元が、金融緩和の巻き戻しを進めた国や地域の通貨を圧倒して全面的に値上がりしたのはいったいなぜか──。
考えられる理由は2つある。

<元買い生む巨額な貿易黒字>

第1に、人民元を取り巻く為替需給環境が、元高優位に傾いている可能性が高い。
現在、中国の貿易黒字は基調を示す原計数の12カ月移動平均値で月間500億ドルを突破し、過去最大記録を更新中だ。

輸出入決済の差額として発生する片道切符の外貨売り・元買い切りの為替フローが、歴史的な規模に膨張していると推測される。

加えて、歴史的な低金利の長期化に頭を悩ませている先進国の機関投資家の間では、金利の高い中国の国債を投資対象のメニューとして
新たに加える動きもあると聞く。貿易実需と対中投資の両面で、人民元高圧力がかかりやすい環境になっているのではないか。

また、近年では、日本の店頭外国為替証拠金取引(FX)でも、人民元/円を取引可能な通貨ペアに加える動きが観測されており、
最近はほぼ恒常的な元買い・円売り超過のポジションが定着している。

まだ、米ドル、ユーロ、豪ドル、ポンドほどの人気はないが、日本国内に居住す為替売買ファンの間でも、人民元は知る人ぞ知る隠れた人気を博している。