[東京 13日 ロイター] - 日本でもインフレが続く中、日銀の金融正常化に関心が高まってきた。新型コロナウイルスへの緊急対応が一巡し、マネタリーベースが減少することで、日銀がQT(量的引き締め)に向かうとの「誤解」も生まれやすい。物価上昇率が2%に届かない中で、本格的な政策修正に至るとの見方は依然少ないが、市場では思惑先行の動きも出そうだ。
<コロナ対応一巡で10年ぶり減少>
今年4月以降、日銀の資金供給量を示すマネタリーベースが減り始める公算が大きい。黒田東彦総裁が就任し「異次元緩和」を始めた2013年4月以降で初めてであり、月次での前年比マイナスは東日本大震災後の反動があった12年4月以来となる。
「正常化」の定義次第ではあるが、22年秋から23年春ごろにかけては数十兆円単位で前年比マイナスになるとの試算もあり、FRB(米連邦準備理事会)よりも早くQT(量的引き締め)に入ると言えなくもない。
しかし、これを日銀が正常化に踏み出したと考える市場参加者は今のところほとんどみられない。「あくまで新型コロナオペの緊急対応が一巡しただけで、政策の本質的な変化はない」と、みずほ証券のチーフ債券ストラテジスト、丹治倫敦氏は指摘する。
日銀の2021年末の国債保有残高も13年ぶりに減少したが、コロナ禍で20年に買い入れが急増した国庫短期証券が減ったことが主因だ。足元の円債金利の上昇は、海外金利上昇の影響が大きく、日米金利差は依然として拡大している。
<ソロスチャートの「亡霊」>
「誤解」であっても金融市場が反応する可能性はある。すでに日銀は長期国債やETF(上場投資信託)の購入額を減らしてきている。上乗せ付利によるマイナス金利の希薄化なども行ってきた。マネタリーベース縮小を機に日銀は正常化に向かい出しているのではないかという思惑は生まれやすい。
マネタリーベースと金融市場の関係で有名なのは「ソロスチャート」だ。2国間のマネタリーベースを比較し、供給量の多い国の通貨が下落するとされる。長期的にみれば、明確な相関性はないというのが為替市場の「通説」に今はなっているが、アベノミクス初期当時は、よく使われた。
長期国債やETFの購入額減少は金融緩和策を長く続けるための対応であると日銀は説明しており、賛同する市場参加者も多いが、「正常化が誤解であっても投機筋がトレードに利用し、相場が動けば真実味を帯びるのがマーケットだ」と、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のシニア・マーケットエコノミスト、六車治美氏は警戒する。
しかし、こうした「誤解」も今の状況では悪くないかもしれない。インフレが高止まりする中で円安が進み、輸入物価が高騰し消費者の不満が高まれば、7月の参院選に向け、早期の政策修正が求められる事態も想定される。「誤解」で過度な円安が抑制されれば、正常化までの時間が稼げる。
<正常化はリセットのチャンスに>
日銀が正常化に向かうのはいつか──。日本で持続的に物価上昇率が2%を超える時期を明確に予想しているエコノミストは少ない。足元のインフレはエネルギー価格上昇や供給制約など海外の要因であって、日本の要因ではないためだ。
今すぐ正常化に向かいインフレを抑制することが日本にとってプラスかという点にも議論の余地がある。日本の物価が上昇しにくいのは、長期にわたって低インフレが続いてきたことで、人々が物価上昇を予想しにくくなっていることが、1つの要因だとされている。
しかし、日本は債務が膨らみ、金利上昇に弱い構造になってしまった。低金利環境を維持し、間接的にせよサポートしているのが日銀だ。GDP(国内総生産)の約1.3倍と主要中銀の中で最大の資産をいつ正常化させるかは大きな課題となっている。
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https://jp.reuters.com/article/boj-qt-idJPKBN2JN016