第三者の精子を使った体外受精を、都内のクリニックが4月にも開始する。生まれた子どもに対し、精子提供者の情報の一部開示を国内で初めて行う。不妊に悩む夫婦の選択肢を広げ、子どもの「出自を知る権利」を保障する狙いがあるが、提供者情報の長期管理を民間が行うには課題も多い。

実施するのは「はらメディカルクリニック」(東京都渋谷区)。匿名で提供された精子を使った人工授精(AID)を長く行っており、日本産科婦人科学会が認めた12の登録施設の一つだ。今春からは、人工授精より妊娠率が高い体外受精も行う。

対象は、夫が無精子症で、6回以上のAIDでも出産できなかったなどの夫婦。夫婦には妊娠後に提供者の職業や病歴を伝え、生まれた子が18歳以降に希望すれば提供者が電話や面会などに応じる。提供者の同意があれば、氏名や年齢も伝える。国内外の精子バンクも利用する。

宮崎薫院長は「子どもを持ちたいと考える夫婦の希望に応え、国内の現状にも一石を投じたい」と語る。

国は2003年、第三者の精子や卵子を使った不妊治療は、法でルールが整備されるまで当面、自粛するよう求めた。その際、1948年に始まったAIDだけは、広く行われていたことから例外的に継続を認めた。だが、不妊夫婦からは妊娠率が高い体外受精を望む声が上がっていた。

また、出自を知る権利も、英独など欧州では法制化が進んでいるが、国内では保障する法律はない。ただ、今回のような民間の取り組みでは、廃業した際に提供者らの情報が散逸してしまう恐れがある。精子バンクの利用は、同学会が禁じている「営利目的での精子提供」に抵触する懸念もある。

第三者の精子や卵子を使った不妊治療を巡っては、超党派の議連が法整備を目指している。石井哲也・北大教授(生命倫理)は「第三者の精子を使う点ではAIDと同じなのに、体外受精を認めないのはちぐはぐな対応だ。民間が独自に行うのは情報管理に懸念が残るため、国は早急に法整備を進めるべきだ」と話す。

◆体外受精=精子と卵子を体外で受精させ、子宮に移植する不妊治療。精液を細い管で子宮に注入する人工授精より、妊娠率は高いが女性の心身への負担は大きい。

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