二〇一九年七月の参院選広島選挙区に立候補した自民党の河井案里候補と夫の河井克行衆院議員が、選挙区の多数の議員に買収のための金をばらまいた事件。地元紙の中国新聞の記者たちが怒りを持って取材し続けた成果をまとめたのが、この本だ。
 「広島は、いまもこんな状態なのか」と感じた人もいたことだろう。ところが、広島だけの問題ではないことが分かってしまうから深刻だ。
 この事件が判明するきっかけは「文春砲」だった。河井陣営が選挙中、選挙カーから名前を連呼する車上運動員への報酬を、上限の二倍の三万円渡していたと週刊文春が報じたことだった。
 これは、地元紙にとって屈辱だ。地元で起きていた選挙違反に気付かず、東京の週刊誌に抜かれたのだから。中国新聞の記者は「完敗だ」と思ったという。本書は、その経緯を正直に書いている。それは、その後、中国新聞独自の取材によって、広島県内の県議や市議に買収資金が渡っていたことを突き止めることができたという自信があるからだろう。
 これをきっかけに、中国新聞は取材チームを結成。県議全員に総当たりで現金を受け取っていたかどうかの確認に動いた。しかし、現金授受を正直に認める議員はわずか。取材は思うように進まない。検察は果たして捜査を始めたのか。検察官の口は堅いが、ある記者が「小さな痕跡」から検察が本格的な捜査を開始したことをつかむ。まるで推理小説を読むようだ。
 河井夫婦は逮捕され、東京地裁で公判が始まる。新型コロナウイルス禍で感染の心配をしながら東京に長期出張し、取材を続ける記者たち。読み物としても面白いが、やがて記者たちは巨大な闇を探り当てる。それは、選挙資金として自民党本部から投入された一億五千万とは別の裏金が買収に使われたという疑惑だ。
 河井夫婦には有罪判決が言い渡されたが、「政治と金」の問題は終わっていない。
 そしてこれは、広島県だけの問題ではないのだ。全国の地方紙にとっても刺激的な読み物になっている。
(集英社・1760円)
中国新聞(広島市)報道センター社会担当の記者を中心にした取材チーム。

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