仮眠や持ち帰り残業が「労働時間」に加算されない? 厚労省が基準厳格化、労災の認定後退の恐れ
2022年1月19日 06時00分

 厚生労働省が昨年、過労死などの労災認定をする際の労働時間の算定について、一定条件下の仮眠を除外したり、持ち帰り残業で極めて厳しい基準をとるよう全国の労働基準監督署に通達していたことが分かった。労働時間のとらえ方を労災被災者らの救済を目的とする労災保険法でなく、法令を守らせる労働基準法に基づいていることを問題視する声も強い。労働時間が実態より過小に算定され、労災の「不認定」の増加につながる恐れがある。(久原穏)

 厚労省の意図について、過労死問題に取り組む弁護士でつくる「過労死弁護団」は「働き方改革と言いながら、労災認定が増えるのは不都合だからではないか。(労働者より)経営側に立つ政権の意向に沿うためもある」と推測する。

 通達は厚労省労働基準局補償課が昨年3月30日付で送った「労働時間の認定に係る質疑応答・参考事例集」。機密扱いだが、家族を過労死で亡くした遺族ら関係者の情報公開請求で明るみに出た。労働時間の調査の留意点のほか、教育訓練や出張、警備員らの仮眠時間、持ち帰り残業などへの対応指針を示している。

 労働法学者らが何より問題視するのは、労災の認定における労働時間を「労働基準法32条で定める労働時間(使用者の指揮命令下にある時間)」と限定的にとらえたことだ。労災保険法の趣旨や目的から外れ、労働者や遺族の救済が進まなくなると懸念する。

 過労死弁護団の笠置 裕亮弁護士によると、労災保険法の労災認定は「指揮命令下」でなく、会社の支配下(拘束されている時間なども含む)かどうかで判断されるという。

 判例も「銀行員がシステム統合の手引習得のために自宅で学習した時間」など「指揮命令下」とは言えない時間も労働時間への算入を認めていた。笠置氏は「通達は司法判断と異なる狭小な労働時間概念を作り出している」と批判する。

 通達にはつじつまの合わない例もある。警備員の仮眠時間は「労基法上の労働時間」とされてきたが、通達は「睡眠施設があり、睡眠がとれて業務による過重性がほとんどなければ労働時間から除外する」と急きょ変更した。

 このほか「持ち帰り残業については、残業の証拠として成し遂げた成果を詳細に示せという、働けない状態にある被災者に無理を強いるような基準もある」(笠置氏)という。

※略※
https://www.tokyo-np.co.jp/article/154967



過労死の「見かけ上の減少を優先」労働時間の過小認定が続出 厚労省の基準厳格化で弁護団が指摘
https://www.tokyo-np.co.jp/article/154971