東京駅を見下ろす丸の内ビルディングの最上階にある高級イタリアンレストランで、今夏のある夜、1組の男女が向かい合っていた。
ものづくり産業労働組合「JAM」会長の安河内(やすこうち)賢弘さん(49)と、JAM副会長の芳野友子さん(56)。安河内会長は抑え気味の声で切り出した。
「芳野さんを連合会長に、という話がある」

芳野さんは言葉を失った。連合会長の選出を協議する立場にある安河内さんからの呼び出しだったが、「議論の経過を教えてくれるのかな」という程度に考えていたからだ。
自らが主役に躍り出る打診に「寝耳に水。本当の本当にびっくりした」と振り返る。

驚くのも無理はない。1989年に結成された「連合」は、約700万の組合員を擁する日本最大の労組の中央組織。
会長には、大企業出身で、かつ組織のトップを経験した者が就任するのが通例だ。一方、JAMは中小企業中心の組織で、芳野さんはトップも務めていない。
しかも、連合会長は、女性が就いたことのないポジションなのだ。

芳野さんの目に戸惑いを感じ取った安河内さんは「今ここで答える必要はないから」と安心させた上で、自分の意見だと断ってこう伝えた。
「要請を断れば、連合に女性会長が出現するのは、あと10年は遅れると思う」

連合初の女性で、最年少の会長へ――。芳野さんが労働界の「ガラスの天井」を打ち破るため、ガラスに手を触れた瞬間だった。
この忘れ得ぬ夜から数カ月が過ぎた今年10月6日、芳野さんは連合の第8代会長に就任した。

 会長に推したのは誰か? 安河内さんは、前連…

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