https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/68526
また韓国で日本のことがやかましくなってきた。ちょっと前まで賑々しかった「ノージャパンキャンペーン(日本不買運動)」が下火になったと思ったら、最近は報道番組で、「アベ」という言葉が何かと飛び出てくる。
安倍晋三・元総理大臣のことである。首相を辞任してから1年以上も経っているのに、韓国人はどれだけこの人のことが好きなのかと思ってしまうほどだ。とにかく安倍氏の一挙手一投足が気になっている様子が、報道からうかがわれる。
韓国が安倍氏を見る視線も、その文脈のなかにある。韓国にとっては、けっして譲歩できず、好意を持てるような相手ではないということだ。
だがそうだとしても、あまりにも毛嫌いしすぎのような気がする。それは単に「〜だから嫌い」という次元ではなく、生理的な嫌悪に近い。とにかく安倍氏を貶(おとし)めて、笑いものにしたくて仕方がない、という印象なのだ。
「アベノマスク」を笑いものに
この年末年始に目にした、そう思えた報道を紹介しよう。
昨年(2021年)末、安倍政権が供給し余剰在庫となっているマスク(アベノマスク)をめぐって、岸田首相が「2021年度内に廃棄することを指示した」と国会で発言すると、韓国で新聞のみならず報道番組でも大きく取り上げられた。ケーブルテレビ局「JTBC」の報道番組では、「安倍元首相は去ったけれども、アベノマスクは8000万枚ほど残っています」という言葉で、岸田首相のマスク廃棄決定を伝える報道が始められた。のっけからなかなかの皮肉に聞こえるではないか。
それだけではない。「飛沫通過率100%と嘲笑され、誰もこのマスクを使おうとしていないとのこと。このままのペースでいけば33年経ってようやくマスクの在庫がなくなると見積もられている」との辛口な言葉が続く。そのあとに続く日本の街中でのインタビュー映像では、「使う人いないんじゃない?」「使ってみたけど、サイズが小さいから使いにくい」「何となく机の奥に」といったコメントが紹介された。
さらにこのマスクの特別な使い方として、いくつかのツイートを引用。「アベノマスクをガーゼの布巾(ふきん)にした」とか「子どもが熱出した時に水布巾の代用にした」、あるいは「マスクの上に種を撒いたら芽が出てよく育った」など、私も知らなかった使用法まで紹介されていた。カビが生えていたなどの不良品があったという情報も、もちろん忘れずに紹介されている。
ちなみに私もアベノマスクについてはかなり批判的である。だがアベノマスクの配布はあくまでも日本国内の話である。日本のニュースとしてただ事実を伝えるのならわかるが、ここまで主観的、感情的な言葉で報道するのは、いくら報道の自由があるとはいっても、いかがなものなのだろうか。外国の出来事に関するこれほど偏った報道を、何の疑問を持たずに受け入れている社会があったとしたら、そちらの方が問題ではないか。
そうした報道になってしまう背景には、安倍首相再来への恐れがあるのではないかと私は考えている。韓国は「安倍恐怖症」なのだ。
そうなった契機の1つとして韓国人がよく挙げるのが、日本政府による「輸出規制」である。2019年7月、日本政府は輸出先として信頼する「ホワイト国」から韓国を除外した。この一件で韓国社会には「日本は信頼できる相手ではない」という意識が浸透し、当時の安倍首相はその首謀者として悪評を確固たるものにしてしまった。
とはいえ、多くの韓国人は「あんなことをされても、たいした影響はなかった。なぜ日本はあんな中途半端なことをやったんだ?」と言い出すのだ