それにしても、レースを見ていた人は「あれ?」と思ったのではないか。

 序盤から松田と上杉真穂(26)の2人が先頭集団を引っ張る男子3人のペースメーカー(PM)についた。大会要項には「ペースメーカーに男性競技者を起用した場合は、記録の扱いは女子単独レースではなく、男女混合レースとなる」とある。その時点で「女子マラソン」とは言えないが、この3人の「ミッション」は1キロを3分19秒から20秒で刻み、2時間19分56秒から2時間20分39秒ぐらいの記録でゴールさせること。選手がついてくれば、「2時間20分切り」や大会記録(2時間21分11秒)が更新できる「筋書き」だった。

 レースは先頭を走る2人のうち、上杉が25キロ過ぎに遅れだし、終盤は松田の独走状態となる。ところが、30キロを過ぎても3人のPMはコースを離れず、ゴール手前約1キロの長居公園周回道路の前まで松田を先導した。

 昨年もそうだった。コロナの影響で史上初の長居公園の周回コース(約15周)で行われ、ゴールの競技場入り口まで男子のPMが先導。優勝した一山麻緒は2時間21分11秒の大会記録をマークした。

 日刊ゲンダイは昨年、ゴール直前までPMがつくのは競技規則144条(競技者に対する助力)に触れるのではないかと陸連に質問したところ「規則上問題ありません」との回答を得て、紙面で詳しく報じた。

■「大阪国際女子はAIMSから脱退するべき」

 しかし、元陸連副会長の帖佐寛章氏は「この大会はマラソンとは呼べない」と声を荒らげてこう語る。

「2001年のベルリンマラソンで高橋尚子が男子選手がPMとなり、複数のガードランナーに囲まれながら世界記録(2時間19分46秒)を出した。当時私は、世界の主要なロードレース大会が加盟する国際マラソン・ディスタンスレース協会(AIMS)の会長だった。AIMSはロードレースの主催者が加盟し、正確な距離計測方法やルールの統一化などを行っている。高橋の記録はPMの力を借りたもので問題だと思い、廃止させるため会議を開いた。メンバーたちは『すでにPMは起用されているから今更ダメとはいえない。ただし、違うゼッケンをつけさせ30キロまでにしよう』と決めた。世界陸連も了承した経緯がある」

 さらに帖佐氏はつづける。

「マラソンで最も苦しいのは30キロを過ぎてからだ。そこからゴール直前まで男子のPMに引っ張ってもらい、『人の手を借りていません』と、なぜ言えるのか。大会主催者に名を連ねている陸連が自ら規則を破ってどうするのか。昨年も今年の記録も、ゴール直前までPMが先導したからだということは、誰が見てもわかることだ。そこまでして記録を出したいというなら、大阪国際女子マラソンはAIMSから脱退するべきだ」

 ちなみに、女子マラソンの日本記録は05年のベルリンで野口みずき(04年アテネ五輪金メダル)がマークした2時間19分12秒。16年以上も昔の話だ。女子マラソンはどんな手を使えば新記録が誕生するのだろうか。https://news.livedoor.com/article/detail/21597312/