過労死防止授業 増やして 命絶った高橋まつりさんの母が訴え:東京新聞 TOKYO Web
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大手広告会社、電通に勤めていた裾野市出身の高橋まつりさん=当時(24)=が過労を苦に自殺してから六年が過ぎた。母の幸美さん(59)=長泉町=は再発防止のため、国が実施する啓発授業の講師として県内外に出向いている。授業の成果を実感する一方で「回数や公立校での実施が少ない。国は強いリーダーシップで機会を増やしてほしい」と訴える。(渡辺陽太郎)

「娘は正常な判断ができない状態まで追い込まれた」。二十日、まつりさんの母校、加藤学園暁秀高校(沼津市)での授業。幸美さんは一年生百二十一人に訴えた。予備校などに通わず東京大に合格し、進学後も留学などに挑戦したまつりさんは自他共に認める「逆境に強い」性格だった。

まつりさんは二〇一五年に電通に入社したが、一週間で十時間しか眠ることができない激務の常態化や、上司の心無い言葉に追い込まれた。長時間労働を苦に自殺する人は決して弱くない、退職という選択も考えられない状態に誰もが追い込まれる可能性があると伝える。「見るのもつらい」というまつりさんが残したメモの画像なども見せる。「みんな、幸せになるため生まれてきた」と授業を結んでいる。

授業は厚生労働省が二〇一六年から始めた過労死防止の啓発事業の一環。幸美さんのような遺族と労働問題に取り組む弁護士が講師となり、希望する学校に派遣される。遺族の思いを知るほか、労働関係の法律も学べる内容になっている。

同省や事業の委託業者によると、二〇年度までの五年間で延べ七百三十三回行われ、中学生から大学生まで約六万八千人が参加した。同省の担当者は「目標数は達成しており、来年度も同等の目標を立てている」と話す。

ただ、中高生は全国に六百万人以上。講師を務める岩城穣(ゆたか)弁護士は「中高生への授業は重要だが、二〇年度までの参加人数は百分の一以下。せめて一桁(十倍)は増やしたい」と話す。また、私立校より生徒が多い公立校での実施の増加も求める。

同省などによると二一年度は今年一月までに二百四回のうち、九十一回は公立校で行われた。偏りはないというが、同一校で複数回行われた場合も一回ではなく複数回実施と計上されている。幸美さんは「私が行くのは、ほとんど私立」と指摘する。岩城弁護士も同様で「文部科学省が(各自治体の)教育委員会に通知を出すなど、環境整備に取り組んでほしい」と話す。

二人はともに務める厚労省の過労死等防止対策推進協議会委員としても、授業数と公立校での実施増を求めている。厚労省の担当者は「予算や講師確保、学校の受け入れ態勢など課題は多い。文科省と連携し解決していきたい」、文科省の担当者は「厚労省の動きを見て、必要な協力をしていく」と話した。

幸美さんや岩城弁護士ら講師陣は授業で使う動画を自分たちで用意するなど、自主的に動いている。幸美さんは「今も長時間労働やパワハラによる自殺が起きている。命を守るための対策は待ったなしだ。国は本気を見せてほしい」と訴える。