私有地ならどうなる?

 もちろん、これはあくまで官公署での話だ。個人宅の敷地や商用地、社用地などに自動車を放置され、迷惑を受けたという人は多いだろう。シャッターの前に停められ、車庫から車を出せなかったとか、戻ってきた運転手に注意したら逆ギレされたといったケースもみられる。

 警察に通報しても、盗難車や犯罪に関与した疑いのある車などでない限り、「民事不介入」を口実に動いてくれず、悔しい思いをするばかりだ。せいぜい、ナンバープレートや車体番号などから登録されている所有者が誰か調べてくれる程度だろう。

 私有地であっても、通行の邪魔になる場所に停められていれば、その土地の管理権に基づき、邪魔にならない場所に少し移動するといった程度のことは可能だと思われる。

 しかし、車の所有者や使用者が発見できないような場所まで勝手にレッカー移動したり、それこそ処分でもしたら、本来は地主のほうが車を放置された「被害者」であるはずなのに、車の所有者らから損害賠償を請求されるなど、トラブルに巻き込まれるかもしれない。

 現に裁判ざたになった例もある。マンションの住民が、マンションの前に3ヶ月にわたって放置駐車していた自動車の持ち主に再三にわたって移動を求めたにもかかわらず、無視されたことから、故意に放置しているとして処分したところ、損害賠償を請求する訴えを起こされた。

 裁判では「やむを得ない特別の事情があった」として請求が棄却されてはいるものの、なぜ簡単に住民側に軍配が上がらず、裁判で揉めたかというと、最高裁がこうした「自力救済」と呼ばれる解決策を「原則として法の禁止するところ」と述べているからだ。

 最高裁は「法律に定める手続によったのでは権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特段の事情が存する場合においてのみ、その必要の限度を超えない範囲内で、例外的に許される」という。

 要するに、法治国家である以上、所有者が誰か分かれば、その者を相手として裁判所に妨害排除請求訴訟や損害賠償請求訴訟などを提起し、勝訴判決を得たうえで、法に則った正規の執行手続をとるのが基本だというわけだ。
https://news.yahoo.co.jp/byline/maedatsunehiko/20220207-00281010