https://www.nikkei.com/article/DGKKZO80029200Q2A210C2KNTP00
女子だってスラックス
制服のあり方、生徒が決める
中学校や高校で制服を見直す動きが広がっている。男子はズボン、女子はスカートという制服の規定を見直し、本人の意向に合わせて着る制服を選べる学校が増えている。新型コロナウイルスの感染対策から私服での登校を許可する学校も増加。生徒が主体となって制服規定そのものを考え直す取り組みも出てきた。
私立の中高一貫校、開智日本橋学園は2020年1月から女子の制服にスラックスを追加した。同校の生徒総会で長年「スラックスを導入してほしい」という意見が生徒から出続け、採用された。
副校長の藤井由紀子さんは、防寒や動きやすさといったメリットに加え、「社会的にLGBTQ(性的マイノリティー)の問題が取り上げられるようになり、理解や関心のある生徒や保護者が増えてきた」と導入の経緯を説明する。
制服メーカーの菅公学生服(岡山市)によると、「性的マイノリティーの当事者は中学校に入学する前に性差に違和感を覚えることが多い」といい、中学や高校で対応が進む。女子生徒のスラックス導入から始める学校が多いという。
東京都では、中野区や世田谷区で2019年から全ての区立中学校で女子生徒がスラックスの制服を選べるようになった。さらに、CCCマーケティング(東京・渋谷)とTポイント・ジャパン(同)が運営する「学校総選挙プロジェクト」が21年に各都道府県立の高校3205校を調べたところ、スラックスが女子の制服として用意されている学校は1365校と全体の4割強にのぼった。
コロナ禍も制服のあり方についての議論の契機になっている。感染対策として、学校が窓や戸を開けて換気するため、温度調節がしやすい私服での登校を認める動きが出始めている。
岐阜県立岐阜北高校(岐阜市)ではコロナ禍で私服着用が部分的に認められた。同校では以前から服装規定が見直されていたが、生徒会を中心に「これを機にそもそもの制服のあり方について検討したい」との声があがり、21年4月に有志の生徒も参加するワーキンググループが発足した。
1年間かけて議論し、「制服を常時着用の義務はなく、着用が推奨される『標準服』とし、私服との選択制にする」との意見書を校長に提出する予定だ。
生徒会の顧問の教諭、後藤隆浩さんは「多くの生徒の利益になるのは、選択の幅を広げることだった」と話す。さらに、ワーキンググループのメンバーを見ていて「最初は個人的な感情で話す生徒が多かったが、徐々に全校生徒の意見として何が適切か考えるようになった」。高校2年生の今井宏晃さんは「自分と違う考えを持っている人がいることに気付いた。先生と生徒が同じ空間で議論できたことはよかった」と話す。
女子生徒のスラックス導入では課題もある。日本ではLGBTQへの理解が進んでいるとは言えないうえ、着用率が高くはないなかで着ることに踏み切れない生徒も多い。被服心理学が専門のお茶の水女子大学の特任講師、内藤章江さんは「学校側が『ジェンダーに配慮している』と打ち出すと、『性的少数者と思われるのでは』との警戒心から手に取りづらくなることもあるのでは」と指摘する。
愛知県一宮市内の公立中学校では、男子は詰め襟、女子はセーラー服という規定を見直し、22年春から男女とも共通のブレザーの下にスラックスかスカート、キュロットを選んで着用できるようになる。しかし、対象者が逆に目立ってしまうとして、「性的少数者への配慮」といった文言は表に出していない。
菅公学生服の企画推進部長、吉川淳稔さんも「導入時には防寒対策といった面を押し出すケースも多い」と話す。内藤さんは「ジェンダーへの配慮は必要だが、それは多様性への配慮の一側面だ。スラックスやキュロットを選ぶことと、性的マイノリティーを直接結びつけないことが必要だ」と指摘する。