チェコで反EUを訴える極右政党の党首は、東京生まれ・チェコ育ちの日系人でトミオ・オカムラという。
しかし、EUの礎を築いた人物もまた、日系人だった。
2人はなぜ真逆の立場に立つこととなったのか、英誌「エコノミスト」が探った。
なぜ日系人が外国人排斥を唱えるのか
2021年9月のある晴れた日、トミオ・オカムラは、プラハから南に約100キロの町の広場で数百名の有権者を前に演説し
リベラル派を批判した。
「あの人たちは移民をもっと受け入れ、ユーロを導入しようとしているんです。ジェンダーもなくそうとしています。
固定資産税も吊り上げようともしているのです」
ステージの隣にはオカムラの政党「自由と直接民主主義(SPD)」の色で彩られた屋台が並ぶ。
そこで売られるのはチェコ国産品だ。基本的な食料は国内で自給自足できるようにしようというオカムラの主張を宣伝しているわけだ。
SPDは、ヨーロッパのほかの国のポピュリズム政党とそっくりだ。移民やジェンダーに関しては右派、社会福祉や年金に関しては左派の立場をとる。
また、オカムラは、他の多くのポピュリズムの政治家同様、笑いをとるタイミングを外さない。だから有権者と延々と冗談を言い合ったりできる。
陽気なタレントとしてテレビに出演していた頃のオカムラを知るチェコ人の多くは、彼の外国人嫌悪は演技なのではないかと思うこともあるらしい。
とはいえ、集会の後にインタビューしてみると、オカムラの反EU感情は紛れもなく本物だった。
「EUが何を言っているかなんて、どうでもいいんです。1000キロも離れたところにいて、このチェコ共和国で私たちと一緒に暮らしたことが
一度もない外国人たちが、私たちに理解できない言葉をしゃべっていてもね。申し訳ないですが、私には英語やフランス語はちんぷんかんぷんです」
オカムラは英語でそう答えた。
「チェコ人はEU加盟国のなかで最もEUに懐疑的な国民なのですよ」
これは大げさだが、チェコがEUに懐疑的だと示す調査結果はいくつもある。
オカムラによると、チェコ人に経済的なメリットをちらつかせても、それは反感を買うだけだという。
チェコ人は、EUにお金をもらわなくてはいけないほど貧しいわけではないという考えなのだ。
オカムラの好戦的な性格は少年・青年時代に原因があると考えるチェコ人は多い。
2019年のチェコのドキュメンタリー『オカムラ・ブラザーズ』(未邦訳)では、オカムラが、児童養護施設での生活が自分の子供時代で最も強烈な経験だったと、
テレビのインタビューに答える場面がある。
「そこではいじめられ、そのときから22歳まで、ずっとどもりが続きました」
そのときオカムラは「頼れるのは自分だけだ」と悟ったそうだ。
https://courrier.jp/news/archives/278570/
https://www.youtube.com/watch?v=zVwPC_0_L5M