アーバンライフメトロ2022年2月16日
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■若者ファッションの街、渋谷で何が起きているのか
若者の街として長く親しまれている渋谷の景色が今、大きく変わろうとしています。それを象徴する出来事が、センター街の中心に店を構えるジーンズメイトの基幹店「JEM(ジェイ・イー・エム)渋谷店」(旧:ジーンズメイト渋谷店)の閉店でしょう。2021年1月、30年の歴史に幕を下ろしました。

渋谷、特にセンター街といえば、若者にとって、原宿と並び、定番の買い物スポットでした。しかし、2012年に「渋谷ヒカリエ」、2018年に「渋谷ストリーム」、さらに2019年に「渋谷スクランブルスクエア」の開業などが相次ぐと、段々と、若者がセンター街から流れていくようになります。

時を同じくして、2019年には、センター街にあった「フォーエバー21」の基幹店が閉店(日本撤退)。2020年以降はコロナ禍によるアパレル苦境も直撃し、ジーンズメイトの閉店へとつながっていくことになります。渋谷はいまや、「若者ファッションのメッカ」の地位から陥落したと言わざるを得ないでしょう。

■ジーンズ量販店の苦境に見る、ジーンズの現在
実際にジーンズ市場は縮小傾向にあり、ジーンズが売れない時代になっています。ジーンズを中心に販売する衣料品チェーン大手、ジーンズメイト、マックハウス、ライトオンの店舗数や売上高は年々減少。現在のジーンズの販売点数は年間5000万点ほどと言われ、20年前と比べると7割ほどに減っています。

販売店の中には、看板商品であるジーンズを店頭に置かない店も出てきており、かつてのような「みんなジーンズ(ジーパン)」というスタイルからは想像もつかない事態を迎えています。

そもそも、ジーンズは米国の炭鉱夫の作業着として誕生したもの。日本では、1970年代ごろから、ファッションアイテムとして登場し始め、1980年代にはケミカルウオッシュ、1990年代にはビンテージジーンズがブームに。日本ジーンズ協議会が開催し、現在も続く「ベストジーニスト」もちょうどこのころの1984年に始まりました。

以来、ジーンズは、股上を浅く履くローライズ、ブーツカット、スキニーなど形を変えながら、メンズ・レディースを問わず、若者を中心に不動の地位を築いていったのです。長らく、若者ファッションの中心にいたジーンズに陰りが見え始めたのは2010年代に入ってから。ファストファッション最大手のユニクロが「ジーンズを変えていく。」のコンセプトの下、新ジーンズブランド「UJ」をスタートさせたことが大きな要因に挙げられます。1000円〜3000円台で買える安価なジーンズの登場によって、1万円以下のジーンズメーカーは軒並み、苦戦を強いられるようになったのです。

さらに、今は多様性の時代。ファッション的にジーンズ以外の選択肢が増えたことで、ジーンズは「多様なファッションのうちの一つ」になりました。若者はジーンズをはかなくなって、代わりに何をはくのか? なんてことはない、「ジーンズも含めた、好きなズボン」をはくだけのことです。

■「ジーンズアゲイン!」はジーンズ復権の端緒となるか
2021年、ユニクロは女優の綾瀬はるかさんとミュージシャンの桑田佳祐さんが登場する新しいCMの放送を開始しました。テーマは「JEANS,AGAIN!もう一度 新しくジーンズを!」。ジーンズにシャツ、ネクタイというスタイルをかっこよく着こなす桑田佳祐さんが地下鉄の駅を颯爽と歩く姿が印象的なこのCM。

安価なジーンを主導し、業界地図を一変させた張本人であるユニクロが発するメッセージとしては何とも皮肉めいたものも感じますが…。ジーンズ再ブームののろしとなる
のでしょうか。

ジーンズ復権を後押しするきっかけとして期待されているのが、IT業界などを中心としたビジネスシーンでの着用です。かつて、スティーブ・ジョブズが黒いタートルネックにリーバイス(Levi’s)のジーンズをはいた姿を覚えているでしょうか。日本でも、パナソニックが徐々に服装の自由化を始め、伊藤忠商事も、ジーンズなどで出勤しても構わない「脱スーツ・デー」の取り組みを始めています。

少しずつではありますが「男性は会社ではスーツにネクタイ」を強制しない自由な雰囲気が浸透してきているのです。

ファッションの多様性を認めることで、ジーンズ一辺倒だった時代は終わりを迎えました。その一方で、今度はその多様性を武器に、ジーンズ復権の日もそう遠くないかもしれません。