「反五輪デモ」字幕の本質見ない報告書 「金で動員」ならスクープ NHKの集合的無意識とは
2/20(日) 11:02

 NHKの調査チームは、ことの本質からあえて目をそらしているのではないか。BS番組「河瀬直美が見つめた東京五輪」の字幕問題に関する調査報告書を読んで、そんな思いさえ持った。2月10日に公表された報告書は「裏付け取材が行われないまま(中略)上司によるチェックも十分行われず、誤った内容の字幕をつけたシーンが放送された」と述べ、現場の失敗として事態を総括する。だが、もっと深刻な組織の問題が伏在していることを、報告書自身が示していると思う。(共同通信=佐々木央)

 番組は五輪公式記録映画の河瀬監督らに密着したドキュメンタリー。公式映画のスタッフが匿名の男性を取材している場面に<五輪反対デモに参加しているという男性><実はお金をもらって動員されていると打ち明けた>と字幕を付けて放送した。

 ■未放送の映像から浮かぶ異なる人物像

 この字幕の信ぴょう性に疑念が持たれた。以下、報告書を読んでいく。

 放送された男性の発言ははっきりしている。「デモは全部上の人がやるから、書いたやつを言ったあとに言うだけ」「それは予定表をもらっているから、それを見て行くだけ」

 これと字幕の「実はお金をもらって動員されている」とを合わせれば、主体的な意思を持たない男性が、お金欲しさから五輪反対デモに参加しているという構図が浮かび上がる。

 しかし、報告書によれば、未放送の撮影素材には「ご飯代ぐらいのお金をもらって、いろいろなデモに参加している」「五輪反対デモは行かない」「コロナが増えるから自分としては五輪はやめた方がいいと思う」という趣旨の言葉が残っている。

 そうなると、人物像が違ってくる。「五輪はやめた方がいい」、理由は不明だが「五輪反対デモは行かない」と明確な意思を示しているのだ。

 報告書はこの後、取材したディレクターの「あいまいな記憶」を記述する。

 ―ディレクターは、記憶があいまいだとしながらも、上記のインタビュー終了後、カメラを回していない状況で、男性から、▽デモに参加することで2000円から4000円をもらうことがある、▽五輪反対のデモに参加する可能性はあるという話を聞いたと話しています―(表記は原文のまま)

 カメラを回しているときには「五輪反対デモには行かない」と話していたのに、ディレクターの「あいまいな記憶」では、それと矛盾する「参加する可能性はある」という言葉に変わっている。

 ディレクターは男性の連絡先さえ把握しておらず、字幕が問題になるまで一度も連絡していない。つまり、未放送の映像に残る「五輪反対デモには行かない」という趣旨の発言と、ディレクターのあいまいな記憶である「参加する可能性はある」という発言だけが、五輪反対デモへの参加にかかわる情報なのだ。

 そしてこの二つの情報から「五輪反対デモに参加している」という字幕の言葉は、どう逆立ちしても導き出せない。この時点で既に字幕は虚偽であり「捏造」と評価するしかない。

 ところが、報告書はこの当然の結論を記述せず、実際に男性が五輪反対デモに参加したかどうかということに焦点を移していく。

 ■後でデモに参加すればOKという奇妙な論理

 今年1月以降、NHKの複数回のヒアリングに対し男性は「五輪反対デモに行った記憶はある」と話したこともあった。だからNHKは1月に「字幕の一部に不確かな内容があった」と発表したのだという。

 さらに報告書は、調査チームによる2月上旬の男性へのヒアリングで「男性が五輪反対デモに参加したという確証が得られなかったため、字幕は誤りだったと判断」したと記述する。

 これは奇妙な論理と言わなければならない。取材・制作の時点では、五輪反対デモには参加していないという情報しかなかった。のちにデモに参加すれば、字幕の「参加している」という虚偽が事実によって上書きされ、“治癒”すると考えたのだろうか。

 取材時点で正しいと信じて報じた内容が、結果として間違っていた場合を「結果誤報」と呼ぶことがあるが、結果として事実と整合した(=だから問題はクリアされた)という意味の「結果確報」という言葉は聞いたことがない。

※略※

https://news.yahoo.co.jp/articles/018e091f82b4a100bb3ad6ad04576cc5347fcf53?page=2