天然痘の病原体は、天然痘(痘瘡)ウイルス(Variola virus)であり、ポックスウイルス科(Poxviridae)の
オルソポックス属(Genus Orthopox)に分類される。
牛痘ウイルス、ワクシニアウイルス、サル痘ウイルスなども、このオルソポックス属に含まれる。
天然痘ウイルスは、エンベロープを有する大型(150nm?260nm)の二本鎖DNAウイルスである。
自然界の中では比較的安定で、低温や乾燥に強く、エアロゾルの状態でも少なくとも数時間は感染力を有すると考えられている。
ただし、紫外線やアルコール、ホルマリン(エーテルには耐性)によって容易に不活化される。
人間が唯一の自然宿主であり、動物や昆虫などによっては媒介されない。

天然痘ウイルスは、臨床的にvariola majorとvariola minorの2つに大別される。
Variola majorによる天然痘はさらに、ordinary(通常型:90%以上がこのタイプ)、modified(軽症型:ワクチン接種者に起こる軽症型)、
flat(扁平型)およびhemorrhagic(出血性)(両型とも稀ではあるが、極めて重症でほぼ致死性)の4つの型に分けられている。
致死率はvariola major全体では約30%(20?50%)、variola minorでは1%以下である。

1956年以降、日本国内では天然痘の発生はなく、1976年にはワクチンの定期接種も事実上中止された。
世界中でも1977年のソマリアにおける患者が最後であり、1980年5月にはWHOが天然痘の世界根絶宣言を出している。
現在、天然痘ウイルスは米国とロシアのバイオセーフティレベル4(BSL-4)の施設のみで厳重に保管されていると公表されてはいるが、
バイオテロに用いられる可能性のある生物兵器としては、炭疽菌とならんで最も重要な病原体である。
CDCの生物兵器カテゴリー分類でも、カテゴリーAに分類されている。

https://www.niph.go.jp/h-crisis/bt/disease/2summary/2detail/