女性を飲食に誘い、飲み物に睡眠薬を混ぜて乱暴するわいせつ事件が後を絶たない。
薬の影響で被害に気づかなかったり、記憶が曖昧になったりするケースも多いが、
毛髪などの鑑定で薬物の検出は可能で、警察は「おかしいと思ったら相談してほしい」と呼びかけている。

「性的被害を受けているかもしれません」。
東京都の30歳代女性は2020年12月、警視庁からの電話で約2年半前の事件に初めて気づかされたという。

 女性は18年4月、異業種交流会で知り合った男に誘われ、食事に出かけた。
恋愛感情はなかったが、男は気さくで話が面白く、勤務先の会社にも興味を持ったからだった。

 場所は東京・銀座の和食店。仕事の話をしながら箸を進め、ビールと焼酎の水割りを数杯飲んだ。
酔っている感覚はなかったが、2回目のトイレに立って席に戻った後、目の前が突然、真っ暗になった。

 翌朝、男の部屋のベッドで目を覚ました。体に違和感はなく、男に「迷惑をかけてしまった」と感じた。
だが、男が20年11月、別の女性への準強制性交容疑で逮捕され、スマートフォンに残された画像などから被害が判明した。

 男はリクルート子会社の元社員の被告(31)(懲戒解雇)。
同様の手口で女性9人に対する準強制性交罪などに問われ、公判が続いている。

 「意識のない間に暴行されてショックだった」。
昨年12月、東京地裁の法廷で女性は涙声で訴えた。

警察庁によると、睡眠薬を悪用したわいせつ事件の摘発は20年に全国で60件あった。
だが、被害に気づかなかったり、記憶が曖昧で警察への届け出をためらったりするケースもあるため、摘発は「氷山の一角」とみられている。

 性暴力目的に使われる薬物は「デート・レイプ・ドラッグ」と呼ばれている。飲酒で作用が強まり意識が混濁するだけでなく、
記憶が途切れる「健忘」を引き起こすことがある。この場合、自分で歩いてホテルに入ったり、男と談笑したりする姿が
防犯カメラに映っていることがあり、男との「合意の有無」が争点になりやすい。

 薬物の成分は尿や血液に残るが、数時間から1週間程度で体外に排出される。
警察への相談が遅れると、検出が難しくなる。

https://www.yomiuri.co.jp/national/20220228-OYT1T50095/