https://www.asahi.com/articles/ASQ2R011QQ2BPTLC01M.html
投稿された部落の写真、さらされた住所 水平社宣言100年たつのに
「うちの近くに来る恐れもあるんやな」
香川県内の被差別部落に住む川田和代さん(54)は気味が悪くなった。
昨春、瀬戸内海のある島の部落の写真がSNSに次々とアップされた時のことだ。
2日間にわたって計35枚ほど。歴史の研究や散歩を思わせるハッシュタグが添えられ、生活環境整備や生活支援、教育支援などを進めた国の同和対策事業で建てられた住宅などを撮影し、駐車している車のナンバーが読めるものもあった。
不安には理由があった。
夫の博士さんは、部落解放同盟の県連執行委員長だった。2016年1月に病気で亡くなった約2カ月後、夫の役職と氏名、現住所がインターネットに出ていると県連から知らされた。解放同盟関係者としてネットに個人情報をさらされた役員らに、削除を求める裁判の原告になるか、意向を問う連絡だった。
同年4月、解放同盟と同盟員らが川崎市の出版社と経営者らを相手取り、部落地名リストの出版差し止めと個人情報の削除などを求めて東京地裁に提訴した。
「隠す必要もないけれど、第三者が勝手にネットにさらすのはおかしい」。迷わず原告団に加わった。
その年の7月の第1回口頭弁論から、コロナ禍の前まで計7回、東京地裁で開かれた公判の傍聴に足を運んだ。
覚悟はしていたが、その間に自分の名前もネットに出された。
新幹線で片道5時間半かけて行っても、15分で閉廷することも。
それでも、なぜそんなことをするのか、知りたかった。
被告側は、歴史研究の資料だとして「差し止めは学問の自由を侵害する」などと主張してきた。部落の地名は、同和対策などに関連して行政や解放同盟が何度も公開してきた、とも訴えた。自身らの行為が原因で「人は死んでいないし、魂も壊れていない」とツイッターに書いたこともある。
川田さんは陳述書にこうつづった。
「本人が部落のことを理解し、自分の出身を重要な他者に伝えていこうとすることと、一方的に暴かれることは全く意味が異なります」