第七章のなかでは、アメリカ言語学会(LSA)にスティーブン・ピンカーの除名を誓願するオープン・レターが出された事件についても触れられている(ちなみに著者はピンカーの歴史観などは支持していないそうだ)*1。結局のところ実際に除名されるまでは至らず、ピンカーの立場は守られて教授を続けられているが、それは「ピンカーに対する批判が不当である」と立証されたからではなく、たまたまピンカーがテニュアを持つ大学教授であったからに過ぎない(このことについてはピンカー自身も認めているらしい)。

日本と同じく、アメリカのアカデミアでも、教授たちの大半は不安定で立場が弱く、大して稼げているわけでもない、非常勤のポジションにいる。彼らがキャンセル・カルチャーの対象になったら、ピンカーの場合とは違って、事なかれ主義で非難を恐れる大学によって簡単にクビを切られてしまう。キャンセル・カルチャーの多くは左派によるものであることをふまえると、労働者の味方をするべきであるはずの左派が立場の弱い労働者を積極的に攻撃していることになる、と著者は指摘するのだ。


「弱いものいじめ」としてのキャンセル・カルチャー - 道徳的動物日記
https://davitrice.hatenadiary.jp/entry/2022/02/26/130202