こども「家庭」庁は右傾化の象徴 林香里さんが問う大きなギャップ
https://www.asahi.com/sp/articles/ASQ2Q3PTDQ2NUCVL00C.html

論壇時評 東京大学大学院教授・林香里さん
 「こども家庭庁」設置法案が月内にも閣議決定され、2023年には同庁が創設されるというニュースが入った。

 表向きには「こどもまんなか社会の新たな司令塔」を謳(うた)う役所だが、土壇場で「こども庁」に「家庭」という2文字が加えられた。結果的に、子どもたちの人権重視や命優先の視点の結実というより、日本の政治/社会の右傾化、そして組織イノベーションに後ろ向きな官僚機構の象徴となった感が否めない。

 教育行政研究者の末冨芳は、〈1〉でこども基本法やこども家庭庁設置の検討が「大荒れ」している背景には、「いわゆる自民党保守派」の存在があると指摘する。末冨は「マルクス主義」「誤った子ども中心主義」という議員たちの発言について、「実際にこども基本法を推進しようとする団体や、その団体が関わる大変な状況の子供若者や親たちのこともぜひ知って、対話したうえで、発言していただけませんでしょうか」と対話を呼びかける。しかし、同庁設置法案の経緯だけを見ても、対話の前途は険しそうだ。

 今月の論壇では、「中央公論」と「都市問題」が子どもや若者の人権に関わる厳しい現実を当事者や研究者の視点から論じる読み応えある特集をしていた。若者の貧困、社会的孤立、子どものメンタルヘルスなど、多岐にわたるテーマが取り上げられている。

 とくに、当事者と当事者に近い立場にいる者たちからの発信は身につまされる。〈2〉では、育児放棄に近い家庭環境で子ども時代を送ったという筆者が、自身の再起について語っている。その際、「親ガチャ」が流行語大賞の候補に入り、メディアがそのポップな語感にまかせてカジュアルに使うことについて、苦言を呈していた。軽い調子で語られる「親ガチャ」は、苦しんでいる人をさらに孤独に追い込んでしまうのではと懸念する。こうした声を読むと、いつか一度、子どもや若者から、「子ども、若者」関連の論壇を批評してもらう「論壇時評ジュニア」のような特集があってよいのではと思う。若者を当事者だけでなく、批評者としても招き入れる――メディアからも「こどもまんなか」を実践し、多様な視点を探ってほしい。