ウクライナ侵攻で進むロシアの頭脳流出――国外脱出する高学歴の若者たち


ウクライナ侵攻をきっかけに、ロシアに見切りをつけて国外移住に踏み切る動きが加速している。
そこにはプーチン政権の「経済的自殺」への悲観だけでなく、「強制的徴兵」への危機感がある。
国外移住に向かう多くは高学歴の若者で、プーチン政権はウクライナや世界はもちろん、ロシアの将来にも暗い影を落としている。
 ウクライナ侵攻後のロシアは、いわば「既定路線にこだわりすぎるワンマン経営者のもとから優秀な社員が次々いなくなる会社」に近づいている。

ロシアからの「避難民」
 ウクライナ侵攻以来、ロシアで活動する海外メディアは次々と規制されているが、これは都合の悪いことを報じられるのを恐れているからとみてよい。そこにはプーチンのお膝元で反戦デモが広がり、すでに数千人が逮捕されていることだけでなく、ロシアから脱出を目指す動きも含まれる。

 国外脱出を目指すロシア人が増えていることは、ウクライナ侵攻が始まった2月末からロシアのGoogle検索で「移住」が急増したことからもうかがえる。


 実際に移住する多くは若者で、さらにその行き先はいわゆる欧米と限らず、アジアや中東の新興国なども含まれるとみられる。ウクライナ侵攻後、NATO未加盟のセルビアなど一部を除き、欧米諸国の多くはロシア直行便やロシア市民へのビザ発給をストップしているからだ。

 3月3日、スリランカへの航空券を購入した若者は英ガーディアンの取材に「自分の将来は奪われた」と話している。

「経済的自殺」「兵隊にとられる」
 ロシア脱出の動きが加速する背景には、経済が極度に悪化することへの恐れがある。

ウクライナ侵攻直後、家族などに促されていち早くハンガリーに移っていた若者は、アルジャズィーラの取材に「仲間たちはこの戦争が‘経済的自殺’になるといっているが、自分もそう思う」と応じている。

 日本を含む西側からの経済制裁がこれまでになく強化されるなか、こうした悲観論がさらに広がることは避けられない。

 これに加えて、「戒厳令が施行される」というウワサが国外脱出の動きに拍車をかけている。戒厳令は大統領に非常大権を認めるもので、いわばプーチンに全権を与えるものだ(現段階でプーチン政権は戒厳令を検討していないと強調している)。

 それにより、国外との移動が完全に停止されるだけでなく、強制的な徴兵も可能となる。だからこそ、徴兵の対象にされやすい若者ほど国外に逃れようとするし、家族がそれを後押ししても不思議でない。

将来的な衰退への道
 エスカレートする若者の国外待避は、ロシア自身にとっての大損失だ。
 もともとロシアでは国外移住を目指す人々が多く、この20年間で500万人が国を出たが、この傾向は最近特に強くなっており、2016-2019年だけでその数は30万人にのぼるといわれる。この移住者数はヨーロッパ大陸で最大規模である。

 特に高学歴の若者ほど国外移住の傾向が強いとみられるが、その大きな要因には「ロシアに機会がない」ことがある。ウクライナ侵攻以前のことだが、フルブライト奨学金を得てアメリカに留学し、修士号までとった女性は、モスクワ・タイムズの取材に、帰国後のロシアでは「海外での評価は過大評価されたもの」といわれて相手にされず、就職もままならいと嘆いていた。

 このように閉鎖的なシステムの裏返しで、ロシアではもともと優秀な人ほど国外に流出しやすかったわけだが、ウクライナ侵攻はこれに拍車をかけている。カーネギー財団のアレクセイ・コレスニコフは「この‘大脱出’は国家の凋落を意味する」と指摘する。


https://news.yahoo.co.jp/byline/mutsujishoji/20220307-00285222