記者会見場の空気は、１人の男性記者が質問を始めた途端に重苦しくなった。
「狙いが分からない」「（記事の）見出しが立たない」。男性は次々と不満をぶつける。
主催側の女性があらためて狙いを説明したものの、男性は「メディアを呼んで会見するからには責任がある」と強い口調で主張を続けた。
会見は、衆院選を約２週間後に控えた昨年１０月、選択的夫婦別姓制度の導入や、温室効果ガス削減などの政策課題について、
各政党に公開質問状を送った市民有志がその回答を発表し、投票の参考にしてもらおうと開かれた。主催側５人のうち４人が女性だった。
男性が、ほとんどが女性の会見メンバーに威圧的に説教する―。
インターネット中継されていた会見を見た人たちの目にはそう映り、会員制交流サイト（ＳＮＳ）上では「マンスプレイニングだ」との指摘が相次いだ。
入管収容の問題に取り組み、会見の発起人に名を連ねた長島結さん（５１）は「上から目線で、女性が反論するとヒートアップした感じ。マンスプレイニングと思った」と振り返る。
◆男性に対しても同じ態度？
主催側で唯一の男性、スガナミユウさん（４１）も「男性がずらっと並んでいたら、同じ態度を取るだろうか」と話す。
ライブハウスの店長として、新型コロナ禍に苦しむ文化芸術分野への支援を求めてきたが、自分たち男性に比べ、女性の発言は誹謗中傷や批判をされがちだ、と感じている。
男性記者が所属する共同通信社に取材を申し込むと、同社総務局は
「ＳＮＳ上で批判的意見があったことは承知している。記者の質問は男性を含む会見主催者に対するもので、誰をも見下すような意図はなかった」
と書面で回答した。
◆無知だと見なす慣習
言語哲学が専門の大阪大大学院講師、三木那由他さん（３６）は
「社会の中には女性を『無知』だとみなす慣習がある。マンスプレイニングは、そうした偏見を強化してしまう点が問題だ」と指摘する。
三木さんは、男性から女性へと性別移行したトランスジェンダーの当事者でもある。外見が変わって女性と認識されるようになると、
初対面で「タメ口」で話されたり、年配男性に話を遮られたりすることが増えたと感じている。
「ジェンダーの構造的な問題を『個人の失礼な話』に矮小化してはいけない。その都度反論し、それを許す社会の慣習自体を変えていくべきだ」と話す。（奥野斐）
マンスプレイニング
男性が女性に対し、見下した態度で説明すること。英語のｍａｎ（男性）とｅｘｐｌａｉｎ（説明する）を組み合わせた造語。
米紙ニューヨーク・タイムズは２０１０年に「マンスプレイナー」を「今年の言葉」の一つに選んだ。「三省堂 辞書を編む人が選ぶ『今年の新語２０２０』」では第５位に。
「マンスプ」と略されることも。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/163736
https://static.tokyo-np.co.jp/image/article/size1/9/b/4/c/9b4c1cf7abc2870f99a908906400ff01_1.jpg
https://www.tokyo-np.co.jp/article_photo/list?article_id=163736&;pid=608397
