あきれるニッケル騒動、老舗取引所の信用失墜

ニッケル先物価格が暴騰した顛末(てんまつ)が詳細に報道されている。市場で大きな話題になり、かつ強い批判があがっている。ショートスクイーズ(空売りの締め上げ)が膨らんだ当日の多くのニッケル先物売買を、ロンドン金属取引所(LME)が取り消すとは開いた口がふさがらない。「取引所の看板を降ろせ」との怒号も飛び交う。LMEといえば歴史ある取引所で、LMEの価格といえば世界的な指標である。

LMEの声明文も市場関係者の神経を逆なでする。「いまや未曽有の事態。長期的な市場安定と短期的な市場関係者の売買益の二択であった」と断腸の思いでの決断というわけだ。

LMEは現在、香港の取引所傘下となっている。今回問題となった世界最大級のニッケル生産会社も中国企業で、取引銀行は中国建設銀行。銀行団の緊急融資でマージンコール(追加証拠金)を支払ったとされる。背景には中国の金融監督当局の存在もちらつく。

さらに、株式相場と商品相場の関係がインフレを視野に特に密接になっていることも指摘されている。9日のニューヨーク市場における株価の急反発は、原油の大幅反落が引き金となった。一番驚いているのは原油先物市場だ。ひたすら短期での収益追求へ投機的な売買を繰り返してきたが、その結果がここまで株価に影響を与えるとは想定外だったようだ。

マクロ経済の視点では、これまで有事対応で進めてきた非伝統的な金融政策による超緩和が、いよいよ引き締めへ移行する歴史的過渡期にある。ディスインフレからインフレに転換し、それと同時進行でウクライナ戦争、米ロ新冷戦の兆しが顕在化している。2022年3月は後世の経済学の教科書にも登場しそうだ。LMEが言うとおり、未曽有の状況にある。

商品価格も未曽有の乱高下となっている。ほぼ2年前に大底をつけた原油先物が、今や100ドル超。下にも上にも行き過ぎを繰り返し、徐々に需給が均衡する価格に収れんしてゆくはずだが、未曽有の状況であるがゆえに未体験ゾーンで、理論的な均衡価格のメドが立たない。視界不良の地合いは、投機筋の草刈り場と化す。原油相場という「賭場」では上げの「丁」が当たってきたが、昨晩は下げて「半」の目が出た。

これで米国株が大幅に上昇するのに市場参加者はクビをひねり、持続性には半信半疑だ。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFL101LM0Q2A310C2000000/