【舞台「千と千尋の神隠し」レビュー】原作映画へのリスペクトが、舞台でしか表現し得ない創意工夫に結実した奇跡!
前略
この作品は、ミュージカルではない。しかし、もしミュージカルにして歌を何曲も入れれば、上演時間は4時間を超えてしまっただろう。その代わり、久石譲の音楽をベースに作ったという音楽は、なんとオーケストラの生演奏。油屋の人々が歌ったり踊ったりするシーンはあるし、とにかく躍動感に溢れている。そしてよく「ミュージカルは総合芸術だ」と言われるが、この作品はミュージカル以上に「舞台は総合芸術だなあ」と感じさせてくれる。
これほどのクオリティを実現できたのは、作り手ひとりひとりの力量はもちろんだが、そのひとりひとりがスタジオジブリの「千と千尋の神隠し」を心から愛していたからではないか。その素晴らしさを損なわないように、その素晴らしさに負けないように、自分たちの仕事で最高の「千と千尋の神隠し」にしたい。その思いの結実なのだと思う。プログラムのインタビューで、セットデザインのボウサーが「この作品ではセット、パペット、小道具、照明、振付などが複雑に絡み合っているので、稽古場ですべてを融合させるのはまるでジグソーパズルかテトリスのようだった」と語っている。しかもコロナ禍のため、海外スタッフは来日できず、リモートで共同作業をせざるを得なかったとか。それでもすべてが見事にバチッと決まり、しかもこれ見よがしに映ることがないのは、まさに舞台芸術の極み。演劇の良さは生の空気感、奥行きを感じられることにあるが、情緒的な「奥行き」を感じられたのも大きかった。舞台の神々が、そこにひしめいているようだった。
舞台版「千と千尋の神隠し」は映画好きにも舞台好きにも、ひとりでも多くの人に見てほしい作品。だが、現在、チケットは入手困難を極めている。きっとこの先、何度も再演を重ね、海外での上演もされることになるだろう。そのたびにどう進化していくのか、それも楽しみだ。
https://news.yahoo.co.jp/articles/06ac487cb5ca9c200ac7f63038712c50ddeb69c7